第1局
全日本プロ将棋トーナメントは今期、朝日オープン将棋選手権として新装した。
特徴としては、
(1)アマチュア枠を10人に広げた
(2)トップ16名の棋士は予選シード
(3)挑戦手合制決勝五番勝負 (今期は選手権者)
などといった点が上がられる。本線はシード枠16名+予選通過者16名の32名によるトーナメント方式。シード枠には永世十段と永世棋聖も含まれている。
戦前はトッププロに厚いと思っていたが決勝に駒を進めたのは杉本昌隆六段と堀口一史座五段のフレッシュな顔ぶれになった。尚、本線トーナメントでは杉本六段は米長永世棋聖、田村五段、森内八段、中原永世十段を、堀口五段は加藤九段、藤井九段、佐藤九段、羽生五冠を破っての決勝進出だ。
堀口五段は凄いところを勝ち進んでいる。
さて第1局。振り飛車党の杉本六段の先手で始まったが初手がちょっと面白く▲1六歩。最近の振り飛車は居飛穴を牽制して割と早くこちらの端を突くケースがあるのでない手ではないが、この大舞台、インパクトが十分だ。
予想通り先手の四間飛車に後手の居飛穴模様の展開になって下図の様に進んだ。早めに△2四角と出ているのは振り飛車の駒組に制約をつける意味がある。
後手:堀口一史座五段
後手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・v銀v桂v香|一
| ・v飛 ・v銀 ・ ・v金v玉 ・|二
| ・ ・v歩v歩 ・v金 ・v歩v歩|三
|v歩 ・ ・ ・v歩v歩v歩v角 ・|四
| ・v歩 ・ 歩 ・ ・ ・ ・ 歩|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 角 銀 歩 歩 ・ 歩 ・|七
| ・ ・ ・ 飛 金 ・ 銀 玉 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:杉本昌隆六段
先手の持駒:なし
【手数=30 △9四歩 まで】
図から▲3七銀△1二香▲1八香△1一玉▲1九玉と進んだ。
後手は予定通りの居飛穴だが先手も▲3七銀としてから穴熊に組換えて相穴熊の将棋になった。先手は手損になるが持久戦になればあまり関係なくなるし1筋の位が大きいと見ている。
しかし玉の堅さは右銀を3一に持って来た後手の方が上で個人的には先手としては面白くない作戦に思える。
下図は後手が攻め切ることが出来るか?という局面。
後手:堀口一史座五段
後手の持駒:金 歩三
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| 龍 ・ ・ ・ ・ ・v銀v桂v玉|一
| ・ ・ ・ ・v歩v金v金v銀v香|二
| 馬 角 ・ 銀 ・ ・ ・v歩v歩|三
|v歩 ・ ・ 桂 歩v歩v歩 ・ ・|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩|五
| ・ ・ ・v歩 ・v飛 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 桂 ・vと ・ 桂 歩 ・|七
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ 金 銀 香|八
| 香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 玉|九
+---------------------------+
先手:杉本昌隆六段
先手の持駒:香
【手数=92 △4六飛 まで】
図から▲4七香△3六飛▲5二桂成△同 金▲同銀不成△4八金▲3九歩△3八金▲同 歩△4八金▲4四香△4六桂▲2九金と進んだ。
▲4七香がちょっと指せない手と思う。2枚の角も自陣によく利いており、丁寧に受けた先手が169手で勝利した。
とても粘り強い杉本六段の差回しが印象に残った一局だった。
#一言日記:阪神が開幕2連勝!
[2002/04/02 00:00]
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第2局
本局は後手の杉本六段は四間飛車に振ったが、藤井システムではなく穴熊を採用した。先手堀口五段は銀冠に。
下図は仕掛けの局面。こうなったら後手の次の一手は決まっている。
後手:杉本昌隆六段
後手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v玉v桂v金 ・ ・ ・ ・v桂 ・|一
|v香v銀v金 ・ ・ ・v飛 ・v香|二
|v歩v歩 ・ ・v歩 ・ ・v歩v歩|三
| ・ ・v歩v歩v銀v角 ・ 歩 ・|四
| 歩 ・ ・ ・ ・v歩v歩 ・ 歩|五
| ・ 歩 歩 歩 歩 ・ ・ 飛 ・|六
| ・ 銀 角 金 銀 歩 歩 ・ ・|七
| ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:堀口一史座五段
先手の持駒:なし
【手数=49 ▲2四歩 まで】
図から△3六歩▲同 飛△同 飛▲同 歩△3九飛▲4二飛と進んだ。
この局面に至っては飛車交換は必然と言える。後手は鉄壁穴熊なのでこの捌きは避ける理由がない。飛車を先着して一見振り飛車十分に見えるが4二飛が角取りなので先に桂香を拾ったのは先手だった。
拾った桂香と一歩(この歩が大きい)を端に投資して端攻めを敢行した。端の局地戦が続いて下図を迎えた。
後手:杉本昌隆六段
後手の持駒:香
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v玉 ・v金 ・ ・ ・ ・ 龍 ・|一
|v香 ・v金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
|v香v歩 ・v銀v歩 ・ ・v歩v歩|三
| 歩v桂 ・v歩 ・ ・ ・ 歩 ・|四
| ・ 桂 歩 ・ ・v歩 ・ ・ 歩|五
| ・ 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩v角 ・|六
| ・ 銀 角 金 銀 歩 ・ ・ ・|七
| ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
|v杏 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・v龍|九
+---------------------------+
先手:堀口一史座五段
先手の持駒:銀 桂 歩三
【手数=88 △9九香成 まで】
図から▲7九桂△9四香▲9三歩△7六歩▲9二歩成△同 玉▲9三銀△8一玉▲7三香。
図は詰めろだが▲7九桂で二の矢がない。端だけを攻略して103手で堀口六段の勝ち。1−1のタイとした。
第1局で脅威の粘りを見せた杉本六段らしからぬ土俵の割り方だった。一方の堀口五段の飛車交換でもやれると思った大局観は素晴らしい。
それにしてもこういった展開になると銀冠は優秀だと思う。森下八段が愛用しているのも頷ける。
#一言日記:えっ?阪神が開幕4連勝!!
[2002/04/04 00:50]
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第3局
杉本六段は私と同じ名古屋出身。同郷で同じ振り飛車党ということもあり応援している棋士の一人だ。
堀口五段は毎年好成績をあげている棋士だ。名前の「一史座」はシーザーに由来しているらしい。振り飛車に対しては持久戦を得意としているようだ。
本局も居飛穴含みの持久戦調の将棋になった。
ミレニアムの布陣に対して▲9五歩と仕掛けて下図に至った。
5三角と7三桂の形に隙有りと見たのか△3一銀引が入る直前を開戦のタイミングと見たのかは分からないが9筋に続いて5筋と7筋も突き捨てての仕掛けだった。経験上こちらの端からの攻めはよほど条件が揃わないとうまく行かないと思うのだが...。
堀口五段も▲7五歩に対し△8四飛などとしないで強く△同歩としたのは棋風なのだろう。
後手:堀口一史座五段
後手の持駒:香 歩四
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v玉v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・v銀v金v銀 ・|二
| ・ ・v桂v歩v角v金v桂v歩v歩|三
| ・ ・ 歩 ・ ・v歩v歩 ・ ・|四
| ・v歩 ・ 歩v歩 ・ ・ ・ 歩|五
| ・ ・ ・ ・ ・ 歩 歩 ・ ・|六
| ・v杏 銀 ・ ・ 銀 桂 歩 ・|七
| ・ ・ ・ 飛 金 ・ 金 玉 ・|八
| ・ 桂 ・ ・ 角 ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:杉本昌隆六段
先手の持駒:歩
【手数=66 △8七成香 まで】
ここから▲7三歩成△7七成香▲同 桂△9二飛▲9八香△9七角成と進んだ。
成香に銀を取られてしまっては先手失敗に見えるが7三にと金を作っているので難しい局面かなっと思い直しところに△9七角成!
凄い手だが、と金の目標になっている角を捌くのが狙いでなるほどと思わせる手だ。
下図は終盤戦。流行の居飛車陣だが4一に斜めに利く駒を打たれると意外と弱い。本譜も4一に角を掛けられているので居飛車もゆっくりとは出来ない局面だ。
後手:堀口一史座五段
後手の持駒:金 桂 香 歩四
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ 龍 ・ ・ ・ 角v銀v玉v香|一
| ・ ・ ・ ・ と ・v金v銀 ・|二
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v歩v歩|三
| ・ ・ ・v歩v金v歩v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・ ・ 歩|五
| ・ 角 ・ ・ ・ 歩 歩 ・ ・|六
| ・ ・ ・v龍 ・ 銀 桂 歩 ・|七
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ 金 玉 ・|八
| ・ ・ ・ ・ ・v銀 ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:杉本昌隆六段
先手の持駒:桂 香 歩三
【手数=99 ▲5二と まで】
図から△4七龍▲同 金△3八金▲1七玉△1二玉▲2五桂打△3七金と進んだ。
△4七龍は寄せに出た手だが、1筋の突き越しが大きな一手になる可能性もある。しかし△3八金を決めてから△1二玉としたのが味わい深い手だと思う。
更に▲2五桂打に根元の桂馬取ってしまう△3七金がまた好手。これで後手勝ちになったようだ。
120手で堀口五段が勝って初代「選手権者」にあと1勝とした。
#一言日記:好調阪神に中日2連勝。隠れ中日ファンとしてはちょっと複雑な思いなのだ。
[2002/04/18 02:10]
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第4局
第4局は居飛穴vs四間飛車といった両者得意の戦型になった。
最近の流行りと少し違っている点が2点ある。藤井システムではなく早めに玉の移動をしたことと居飛車が▲6六歩ではなく▲6六銀とつっぱていることである。
6六銀型には狙いがあった。
後手:杉本昌隆六段
後手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金 ・v金 ・v桂v香|一
| ・v玉 ・ ・ ・v飛 ・ ・ ・|二
| ・v歩v歩 ・v歩 ・v角v歩v歩|三
| ・ ・ ・v歩v銀 ・v歩 ・ ・|四
|v歩 ・ ・ ・ ・v歩 ・ 歩 ・|五
| ・ ・ 歩 銀 歩 ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 角 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩|七
| 香 ・ ・ ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八
| 玉 桂 銀 金 ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:堀口一史座五段
先手の持駒:なし
【手数=28 △4五歩 まで】
図から▲5五歩△6三銀▲5七金△7二銀直▲8八銀△5二金左▲5六金と進んだ。
5七金〜5六金としてガッチリ位を確保するのが狙いの構想だった。手厚い棋風の堀口五段らしい手ではある。ありそうだけども見たことがない構想だ。
しかし守りの金が離れてしまいデメリットもあるし、そもそも居飛穴の思想にはマッチしない感じは否めない。
この後、3六歩〜3七桂として4五の歩を取りに行く将棋になったが、振り飛車に軽くいなされて振り飛車ペースの中盤になった。
ところが...。
下図はやや攻め急ぎだったのか振り飛車ちょっと忙しい局面になっている。
後手:杉本昌隆六段
後手の持駒:金 香
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・ ・ ・ ・v香|一
| ・v玉v銀 ・ ・v飛 ・ ・ ・|二
| ・v歩 ・v金v歩 ・ と 歩v歩|三
| ・ ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・ ・v角|五
| 歩 角 歩v歩 銀 ・ 飛 ・ ・|六
| 桂 歩 ・ 歩 ・ ・ ・ ・ 歩|七
| ・ 銀 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 玉 ・ ・ 金 ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:堀口一史座五段
先手の持駒:銀 桂二 歩五
【手数=75 ▲3三歩成 まで】
図から△4五飛!?▲同 銀△6七歩成▲5五桂と進んだ。
なんと△4五飛と切ってしまった。成果は6七の地点にと金が出来たことだが、さすがに無理っぽい感じがする。杉本六段になにか誤算があったとしか思えない。
急転直下、89手で堀口五段が勝って初優勝。
藤井九段、佐藤王将、羽生四冠を倒しての優勝だから大きな価値のある優勝だった。新しいヒーローが誕生した。
#一言日記:先日「ロード・オブ・ザ・リング」を観に行った。原作は言わずと知れたなトルーキンの「指輪物語」。中学の頃、読もうと思ったけどもあまりの文字の小ささと物量に圧倒されて未読のまま現在に至っているという(?)名作だ。映画は素直に面白かった。映像の凄さだけでも一見の価値はあると思います。お薦め。
[2002/05/01 22:00]
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