第1局
A級順位戦では惜しくもプレーオフに破れてしまった羽生だが、今年度も羽生が中心であることには変わりはなさそうだ。
藤井は竜王戦失冠以来これといった活躍がない。藤井システムの対策が進んできたのが原因ではあろうが、まだまだシステムは進化すると思いたい。久々の番勝負登場だ。
個人的に最も観戦したいカードの第1局は藤井の後手四間飛車、対する羽生は5七銀右を選択した。5七銀右と言っても色々あるが▲3五歩と突き捨ててから▲4六歩とするヤツである。
図は▲4六銀としたところ。
後手:藤井猛九段
後手の持駒:歩
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・v銀v玉v金v飛 ・ ・ ・|二
| ・v歩v歩v歩v歩 ・v角v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ 歩v銀 ・ ・|四
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・v歩 歩 ・|五
| ・ ・ 歩 ・ 歩 銀 ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 ・ ・ ・ ・ 歩|七
| ・ 角 玉 ・ 金 飛 ・ ・ ・|八
| 香 桂 銀 金 ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治朝日
先手の持駒:歩
【手数=31 ▲4六銀 まで】
ここから△4七歩▲同金△1二香▲6八銀△7一玉▲2八飛△8二玉▲7九金△5四歩▲2四歩と進んだ。
△4七歩は手筋だが決行するタイミング早いと感じだ。本譜は一見後手の一歩損に見える。しかし先手も有効な手がなく▲2四歩と仕掛けるしかないのならバランスは取れているのだろう。
中盤の下図。先手が桂馬を▲3三で成り捨てて飛車を成ったところ。
後手:藤井猛九段
後手の持駒:角 桂 歩二
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・ ・ ・ ・ ・|一
| ・v玉v銀 ・v金 ・ ・ 龍v香|二
| ・v歩v歩v歩 ・ ・v桂 ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・v歩v飛v銀 ・ ・|四
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ 歩 銀 ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 ・ 金 ・ ・ 歩|七
| ・ ・ 玉 銀 ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 金 ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治朝日
先手の持駒:角 歩三
【手数=51 ▲2二飛成 まで】
ここから△4二飛▲3三龍△4三金▲3一龍△2二角▲同龍△同飛▲4四歩△4二金▲1六角△2五銀▲3四桂と進んだ。
△4二飛から△2二角までは後手の方針だったと思う。△2二角に▲同龍△同飛で2筋に回った飛車は成り込みが確定しているように感じる。この飛車が成れれば二枚飛車が実現する。
しかし、▲4四歩(△同金なら▲3三角)から▲1六角が後手の飛車を封じ込める角で、難しいものの先手ペースになった気がする。
最後はきっちり長手数の詰みを読み切った羽生が135手で緒戦を制した。
#一言日記:7日は長男の小学校入学式に。うちはもう一人次男がいるので両親で行ったが、男親が予想以上に沢山参加していた。現在の子供と自分の子供時代を比較してみたりする機会だが、つくづくと時代は変わったと実感。
[2006/04/09 01:20]
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第2局
藤井は前局で対羽生戦9連敗。羽生vs藤井というと第13期竜王戦が思い出されるが、当時は藤井システム全盛で羽生が居飛穴以外の作戦を模索していたような気がする。時代は流れて藤井システム受難と言われている昨今、藤井の苦悩は続いているのか。
さて、本局は後手が角道を開けないで引き角にする趣向を見せた。先手藤井も四間ではなく直接向飛車に構えた。
図は△3一玉としたところ。
後手:羽生善治朝日
後手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・v金v玉v桂v香|一
| ・v飛 ・v銀 ・ ・v銀 ・ ・|二
|v歩 ・v歩v歩v角v歩v歩v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・ ・ ・|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 歩 銀 ・ ・ ・ 歩|六
| 歩 歩 角 ・ 歩 歩 歩 歩 ・|七
| ・ 飛 ・ ・ 金 ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:藤井猛九段
先手の持駒:なし
【手数=18 △3一玉 まで】
ここから▲4五銀△8四飛▲4八玉△4四歩▲5六銀△5二金右▲3八玉△2二玉▲2八玉△4三金▲1八香と進んだ。
▲4五銀はいかにも早すぎるのではと感じる。本譜のように▲5六銀と戻ることになると手損のみが残った気がして意味不明。将来の4筋の拠点を作ったということか。
左美濃vs穴熊と玉を囲い合う持久戦となった。
図は▲6五歩と6筋の矛を収めようとしたところ。ここまでの間に▲4五歩と4筋の歩を交換して、銀が3六に移動している。こうしてみると4筋の歩が切れており先の▲4五銀の顔が立っているとも言える?
後手:羽生善治朝日
後手の持駒:歩
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・v飛 ・ ・v金v玉 ・|二
|v歩 ・ ・ ・ ・v金v銀v銀 ・|三
| ・ ・v歩v角 ・v歩v歩v歩v歩|四
| ・v歩 ・ 歩 歩 ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 角 ・ ・ 銀 ・ 歩|六
| 歩 歩 桂 ・ ・ ・ 歩 歩 ・|七
| ・ 飛 ・ ・ ・ ・ 金 銀 香|八
| 香 ・ ・ ・ ・ ・ 金 桂 玉|九
+---------------------------+
先手:藤井猛九段
先手の持駒:歩二
【手数=65 ▲6五歩 まで】
ここから△3一角▲8四角△6一飛▲5八飛と進んだ。
ここまで進むと完全に先手ペースと言えるのではないだろうか。▲8四角が機敏。
図は△5九龍としたところ。先手に軽妙な手があった。
後手:羽生善治朝日
後手の持駒:角 香 歩二
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ 龍 ・ ・ ・v金v玉 ・|二
|v歩v歩 ・ ・ ・ ・v銀v銀 ・|三
| ・ ・ ・ ・v金v歩v歩v歩v歩|四
| ・ ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ 歩 ・ ・ ・ ・ 銀 ・ 歩|六
| 歩 ・ 桂 ・ ・ ・ 歩 歩 ・|七
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ 金 銀 香|八
| ・ ・ ・ ・v龍 ・ 金 桂 玉|九
+---------------------------+
先手:藤井猛九段
先手の持駒:角 桂 歩四
【手数=106 △5九龍 まで】
ここから▲4二歩△同銀▲4三歩△同銀▲4二歩と進んだ。
▲4二歩からの一連の手順が手筋とは言え好手順だった。これも4筋の歩が切れているご利益だ。はやり▲4五銀は好手だったのか?
以後順調に寄せて藤井が対羽生戦の連敗を9で止めた。
引き角戦法は最近の週刊将棋で飯島栄治五段が連載している。角道が開いていないので角筋を活かしたカウンターが利かないので、普通の対居飛車とは違う感覚が必要なのは確かだ。
羽生も採用したのでもしかしたら流行するかもしれないが、それほど優秀なの戦法ではないと思う。
#一言日記:子供が小学校に通うようになって6時半に起床するようになった。会社は8時に起きても間に合う(徒歩通勤)のだが、一旦6時半に起こされて2度寝すると次に起きるのが8時過ぎになってしまうという悪循環から脱することができない。
[2006/04/20 00:25]
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第3局
第3局は羽生朝日の早仕掛けに対して、四間飛車の藤井九段は△5六銀から玉頭銀を採用した。
早仕掛けの攻防には大別すると(1)4五の地点で銀桂交換してしまうもの、(2)▲2四歩に対して△同角と応じて防戦するもの、(3)本譜の玉頭銀がある。
(1)は昔から指されているものだが、難しいながら居飛車よしとなる変化が多い。(2)は悪形に甘んじるので本筋とはされていなかったが、歩得も大きく戦況を収めてしまえば居飛車を指し過ぎにできるので見直されていた。しかし郷田新手の出現で、現在はほどんど指されなくなってしまった。
(3)の玉頭銀は(2)に台頭する手法として再認識された。これも昔からある指し方だが、単騎の銀ということもあり本筋とは考えられていなかったようだ。しかし(1)(2)も四間飛車側の旗色が良くないので、消去法の結果有力視されてきた。
前置きが長くなったが、羽生も早仕掛けを敢行するにあたっては玉頭銀で対応されることは想定内のはずで、用意の対策が注目の一局になった。
図は▲4五歩の仕掛けに対し△7六銀とすり込み、▲2四歩△同歩▲4四歩と取り込んだ局面。
後手:藤井猛九段
後手の持駒:歩二
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・ ・ ・v桂 ・|一
| ・v玉v銀 ・v金v飛 ・ ・v香|二
| ・v歩v歩v歩v歩 ・v角 ・v歩|三
|v歩 ・ ・ ・ ・ 歩v歩v歩 ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| 歩 ・v銀 ・ 歩 ・ 歩 ・ ・|六
| ・ 歩 ・ 歩 銀 ・ 桂 ・ 歩|七
| ・ 角 玉 金 金 銀 ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治朝日
先手の持駒:歩
【手数=35 ▲4四歩 まで】
ここから△9五歩▲同歩△4四角▲7七歩△3五歩▲4五歩△2二角と進んだ。
ここは単に△3五歩として振り飛車悪くないとされている。本譜の△9五歩もある手だが、端歩は後手も急所で△3五歩からの変化に不満がないのならば選択肢からは外れる順だと思う。△9五歩▲同歩に対し△4四角としたのが藤井の工夫だったのかもしれない。△4四角では△9八歩から端で手を作るのが有力。本譜はここでの▲7七歩が絶妙のタイミングで居飛車有利になった様だ。
図は投了図。投了にはまだ早い気がするが、以下△4三歩に▲2一龍とされると先手優勢は明白だ。
後手:藤井猛九段
後手の持駒:銀二 歩三
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・v桂 ・v金 ・ ・ ・v桂 ・|一
| ・v玉v銀 ・v金v飛 ・ ・v香|二
| ・v歩v歩v歩v歩 ・ ・ 龍v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ 香 ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・ 桂 ・|五
| ・ ・ 歩 ・ 歩 ・ ・ ・ ・|六
| 香 歩 ・ 歩 銀 ・v馬 ・ 歩|七
| ・ 玉 ・ 金 金 ・ ・ ・ ・|八
| ・ 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治朝日
先手の持駒:角 歩四
【手数=63 ▲4四香 まで】
本譜は藤井のミスで振り飛車が悪くなったが、先手居飛車が良くなる順、即ち羽生が想定していた局面にはならなかった気がする。
#一言日記:コンピュータ将棋選手権は初出場のBonanzaが優勝した【コンピュータ将棋協会】。評判通りの強さだったようだ。
[2006/05/08 00:30]
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第4局
第4局、先手藤井九段は言わずと知れた四間飛車に対して羽生朝日がどんな作戦を選択するのか興味深かったが、羽生の選択は後手番ながら右銀急戦だった。
藤井システムは左美濃や居飛穴対策に主軸を置いているため、対急戦では不急の手がどうしても含まれてしまう。▲4六歩も急戦相手なら突きたくない歩だがシステムの性格上序盤で突くことが多い。勿論急戦対策も万全だからこそ突ける歩ではあるが、ある種のジレンマが存在することは確かだ。
右銀急戦も、▲4六歩を咎める手段として見直されてきた。
定跡通りの仕掛けで角交換となり、図は△5五銀と躱したところ。
後手:羽生善治朝日
後手の持駒:角 歩
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・v金v銀v桂v香|一
| ・ ・v飛 ・v金 ・v玉 ・ ・|二
|v歩 ・ ・v歩 ・v歩 ・v歩 ・|三
| ・ ・ ・ ・v歩 ・v歩 ・v歩|四
| ・v歩 ・ 歩v銀 ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 銀 ・ ・ 歩 ・ ・ 歩|六
| 歩 歩 飛 ・ 歩 ・ 歩 歩 ・|七
| ・ ・ ・ ・ 金 ・ 銀 玉 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:藤井猛九段
先手の持駒:角 歩
【手数=34 △5五銀 まで】
ここから▲8三角△7三飛▲6一角成△8八角▲7四歩△同飛▲7五銀△9四飛▲6四歩△同歩▲9四馬△同歩▲8二飛と進んだ。
▲8三角からの手順は現在最有力とされている。飛角交換になったところでは、陣形の差から一目振り飛車が勝ち易い形と思う。
あとは飛車をどこに降ろすかということだが、前例(将棋日本シリーズ2005決勝:藤井○vs●丸山)は▲7一飛だったが、本譜は▲8二飛。
アマチュア四間飛車党には振り飛車ペースと思える展開になった。実際、主催紙Webでもこの辺りは振り飛車乗りの声が大きかった。しかし羽生はそうは思ってなかったのかも知れない。美濃囲いの急所である端から手を作って先手陣もたちまち気持ち悪い形になってきた。
図は△2四桂としたところ。4六の歩は5五の銀にかすめ取られており、▲4七金とはできなくなっている。
後手:羽生善治朝日
後手の持駒:飛 香
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| 龍 ・ ・ ・ ・v金v銀v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・v金 ・v玉 ・ ・|二
| ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・v歩 ・|三
|v歩 ・ ・v歩v歩v角v歩v桂 歩|四
| ・v歩 銀 ・v銀 ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・ 香|六
| 歩 歩 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩 香|七
| ・ ・ ・ ・ 金 ・ 銀 玉 ・|八
| ・ ・ ・ ・ ・ 金 ・ 桂 ・|九
+---------------------------+
先手:藤井猛九段
先手の持駒:角 桂 歩三
【手数=76 △2四桂 まで】
ここから▲3七銀△1七角成▲同桂△1六桂▲3九玉△2四香▲1三歩成△同香▲2五桂打△5一香と進んだ。
後手は▲3七銀に対して角を切って先手陣に殺到してきた。スリル満点の面白い中終盤になった。
終盤の下図。▲3七金と成桂を外したのに対し、4五の桂馬で△同桂成としたところ。
後手:羽生善治朝日
後手の持駒:角 金 銀 香 歩
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| 龍 ・ ・ ・v香v玉v銀 角 ・|一
| ・ ・ ・ ・v金 ・ ・ ・ ・|二
| ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・v歩v香|三
|v歩 ・ ・v歩v歩 ・v歩 ・ ・|四
| ・v歩 銀 ・v銀 ・ ・ 桂 ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・v桂|六
| 歩 歩 歩 ・ 歩 歩v圭 歩 ・|七
| ・ ・ ・ ・ 金 ・ ・ ・ 金|八
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ 玉 ・ ・|九
+---------------------------+
先手:藤井猛九段
先手の持駒:飛 桂 香 歩三
【手数=106 △3七同桂成 まで】
ここから▲3三桂不成△4二玉▲4一飛△5三玉▲9三龍△6三香▲3八香△6七角と進んだ。
藤井は▲3三桂不成〜▲9三龍と後手玉を追って、▲3八香と手を戻した。対する△6七角がぴったりの手で体勢が喫した。
126手で羽生の勝ち。見応えのある四間飛車シリーズだった。羽生の大局観の凄さを再認識した気がする。一方、結果は残せなかった藤井だが藤井システムが健在であるという手応えは感じたのではないだろうか。
#一言日記:今回が朝日オープン最後の選手権者になってしまったりして。名人戦問題だが、毎日新聞は相当怒っているようだ。社説でも「まずボタンのかけ直しを」と将棋連盟を批判している。
[2006/05/17 01:10]
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