第1局
振り飛車党期待のホープ久保利明六段がタイトル戦に初登場。久保六段は個人的に応援している棋士の一人なので是非頑張ってほしいところだ。
第1局は先手久保の藤井システムに羽生棋王の居飛穴という戦型になった。対藤井竜王戦では途中から居飛穴を捨てていた感があったが、今回は居飛穴だった。それもかなり挑発的な駒組だった。
振り飛車党にとっては「これはさすがに四間飛車が優勢だろう」と思う序盤の様に見えたが実はそれほどでもない局面だったのかいつの間にか難解な将棋になっていた。最後は羽生が貫禄勝ち。
この将棋は後日振り返ってみたいと思う。
[2001/02/15]
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本局の羽生棋王は藤井システムに対し居飛穴を目指した。竜王戦のことを考えると何か秘策があるのだろうか。
下図は▲6五歩に対し△1一玉とした局面。この△1一玉は挑発的というか強情な手と思う。先手から▲6四歩の仕掛けが見えているからだ。
後手:羽生善治棋王
後手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・v金v銀v桂v玉|一
| ・ ・ ・v銀v金 ・ ・ ・v香|二
|v歩 ・v歩v歩 ・v歩v角v歩v歩|三
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・|四
| ・v歩 ・ 歩v歩 銀 ・ ・ 歩|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ 歩 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 角 ・ 歩 ・ ・ 歩 ・|七
| ・ ・ ・ 飛 ・ ・ 銀 ・ ・|八
| 香 桂 ・ 金 玉 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:久保利明六段
先手の持駒:なし
【手数=28 △1一玉 まで】
果たして▲6四歩と仕掛けた。先手としてはここでは仕掛けて局面をリードしたいところだ。
以下▲6四歩△2二銀▲3四銀△4二角▲6三歩成△同 銀▲4三銀不成△6四角▲5二銀不成△同 銀▲9五金で下図。
後手:羽生善治棋王
後手の持駒:銀 歩
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・v金 ・v桂v玉|一
| ・ ・ ・ ・v銀 ・ ・v銀v香|二
|v歩 ・v歩 ・ ・ ・ ・v歩v歩|三
| ・v飛 ・v角 ・ ・ ・ ・ ・|四
| 金v歩 ・ ・v歩 ・ ・ ・ 歩|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ 歩 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 角 ・ 歩 ・ ・ 歩 ・|七
| ・ ・ ・ 飛 ・ ・ 銀 ・ ・|八
| 香 桂 ・ 金 玉 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:久保利明六段
先手の持駒:歩三
【手数=39 ▲9五金打 まで】
▲9五金は厳しい手だ。飛車が縦に逃げれば角がタダ。先手が1本取ったかに見えた。しかし、
△7四飛▲8五金△5六歩▲7四金△4六角
と進んでみると意外にも難しい。△5六歩が味の良い手で飛車を取られても△4六角と出て相当だ。先手は居玉で4〜6筋に歩が立つのも痛い。こうなると3七桂と跳ねていない形が立ち遅れに見えてくる。攻撃面では桂馬が端攻めに参加出来そうもないし、香取りにもなっている。
実際は形勢不明だろうが、久保六段にしてみれば自分が良くなるはずと思っていた展開が実際は難解だったことに気付き愕然としたことだろう。
この後も壮絶な戦いが続くのだが、本レポートは例によって序盤の仕掛けのみみスポットをあてて、中終盤の難しい局面の言及はしない(だった難しくて分からないもん)。
振り飛車党の私は思う、ここまでで振り飛車優勢になる変化はなかったのだろうかと。例えばどこかで▲1四歩と端にあやを付けておくとか。例えば▲6三歩成△同 銀▲4三銀不成では先に▲4三銀と捨てるとか、例えば▲9五金では▲6五金とこちらから金を打つとか...。
△1一玉はとがめることが出来ると思うのだが錯角なのだろうか。いずれにしろ羽生棋王は勝算有りとみて△1一玉としたはずで、その卓越した大局観はさすがですね。
[2001/02/16]
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第2局
第2局は相穴熊の将棋になった。相穴熊戦は居飛車に飛車先が伸びているアドバンテージがあるので、淡々と固め合っては居飛穴が有利になるというのが定説で、そのあたりが見どころかもしれない。
本譜は先にジャブを出したのは後手の久保だった。
後手:久保利明六段
後手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v玉v桂v金 ・v飛 ・ ・v桂v香|一
|v香v銀 ・v金 ・ ・ ・v角 ・|二
| ・v歩 ・v銀 ・ ・ ・v歩 ・|三
|v歩 ・v歩v歩 ・ ・v歩 ・v歩|四
| ・ ・ ・ ・ 歩v歩 ・ 歩 ・|五
| 歩 ・ 歩 歩 ・ ・ 歩 角 歩|六
| ・ 歩 ・ 金 銀 歩 桂 ・ ・|七
| 香 銀 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 玉 桂 金 ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治棋王
先手の持駒:歩
【手数=57 ▲5五歩 まで】
以下、△3五歩▲同 角△5五角▲2六角△6五歩▲同 歩△7三角▲5五歩△7二金寄▲6六金
後手は仕掛けるもすぐにどうってことではなく角を7三に引いた。以降は先手が押さえ込む展開となった。先手としては歩得になったし、右の桂馬が捌ければ有利になりそうなので相手の動きを丁寧に受ける方針でよいわけだ。
本譜も金駒は自陣から離れるが、押さえ込みに成功し大差になってしまった。
相穴熊は名局も多いが、逆に大差になってしまう場合もあり、本譜は後者になってしまった。これで羽生は2連勝。久保は後がなくなった。久保六段の持ち味は軽快な捌きの四間飛車だと思うので、次回は穴熊以外で戦ってほしい。がんばれ!久保六段!!
[2001/02/25 23:55]
第3局
純正振り飛車党の久保六段に対し、羽生棋王の作戦が今期棋王戦の注目点の一つだが、第3局は相振りを採用した。個人的には棋王戦で一度は見てみたかった戦法だが、羽生棋王としてみれば連勝の余裕が相振りを選ばせたのかも知れない。
例によって序盤に注目してみる。下図は矢倉を目指した先手に対し△3六歩を決めたところ。
後手:羽生善治棋王
後手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金 ・v金v銀v桂v香|一
| ・ ・v玉 ・ ・ ・ ・v角 ・|二
|v歩v歩v歩v歩v歩 ・ ・ ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・v歩v飛v歩 ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ 歩 歩 歩 ・ 歩v歩 ・ ・|六
| 歩 ・ 角 銀 歩 ・ 銀 歩 歩|七
| ・ 飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ 金 玉 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:久保利明六段
先手の持駒:歩
【手数=22 △3六歩打 まで】
相振りは矢倉に組めれば作戦勝ちと言われている。△3六歩は矢倉指向の先手に対し簡単には組ませませんよ、という意味の手。一回は▲2八銀とするしかなく、すぐには取れない歩だが後に必ず目標になるので序盤の勝負手といえる。一見タイミングが早すぎると思うが大丈夫なのだろうか?
先手は3六の歩を取りきって作戦勝ちを目指し、後手は3六を取られる前に開戦を目指す流れで進んで下図。
後手:羽生善治棋王
後手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v玉v銀 ・ ・ ・v飛v角 ・|二
|v歩v歩v歩 ・v歩v金 ・ ・v歩|三
| ・ ・ ・v歩v銀v歩 ・v歩 ・|四
| ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 歩 銀 歩v歩 歩 ・|六
| 歩 ・ 角 ・ 歩 金 ・ 銀 歩|七
| ・ 飛 ・ ・ ・ 金 玉 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:久保利明六段
先手の持駒:歩
【手数=41 ▲2七銀 まで】
以下、△4五歩▲同 銀△同 銀▲同 歩△6二飛▲8四歩△同 歩▲8五歩△同 歩▲8四歩
と進んだ。
後手は2三の地点に傷があるのが痛く、銀交換後の▲4同五歩に△6二飛と一旦逃げなければならないのが辛かった。手番を得た先手は美濃の弱点である玉頭を継歩攻め。この折衝は先手がポイントを稼いだ。
以降も先手がうまく指し、97手で久保六段が勝利した。
22手目の△3六歩は羽生棋王らしいチャレンジングな手だがやはり早すぎたと思う。
[2001/03/06 01:00]
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第4局
第4局。結論から言うと羽生が勝って防衛を果たした。久保六段も持ち味を出して頑張ったが羽生の懐は深かったというところか。それにしても本局は面白かった。中終盤は手に汗握る大熱戦なのだが、まずは例によって序盤のポイントに着目する。
下図は後手が△4四歩と浮き飛車から石田組みを目指したところ。すんなり石田に組めれば振り飛車不満なし、かといって▲6五歩の開戦はじっと△同歩で問題ないだろう。
後手:久保利明六段
後手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v玉v銀 ・v金 ・v銀 ・ ・|二
| ・v歩v歩 ・v歩 ・v角v歩v歩|三
|v歩 ・ ・v歩 ・v飛 ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・v歩v歩 歩 ・|五
| 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ ・ ・|六
| ・ 歩 角 金 銀 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ 玉 銀 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ 金 ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治棋王
先手の持駒:なし
【手数=30 △4四飛 まで】
図から、▲6五歩△同 歩▲4四角△同 角▲7七銀△5四歩▲7八金△3六歩▲同 歩△6四角▲1八飛△3七歩
羽生五冠の指し手は▲6五歩。どうやら羽生の頭脳には私には振り飛車不満なしと思える局面のそのずっと先に居飛車もやれる局面が描かれているようだ。▲6五歩△同 歩▲4四角△同 角に▲7七銀も凡人には指せない手だ。形は▲7七桂だが6筋を厚くする意味があるのは分かるのだが...。
でもやはり振り飛車も好所6四に角を打てて△3七歩と垂らした局面は満足な局面ではないだろうか?
ここからが羽生将棋の凄いところ。一見相手の待ち構える局面からなんだかんだと手をつくってしまう。とても面白い将棋で見せ場は沢山あるがここで一つだけ紹介しよう。
後手:久保利明六段
後手の持駒:歩二
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v玉 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v銀 ・ ・v銀v金v銀 ・ ・|二
| ・v歩 歩v歩 ・ ・ ・v歩v歩|三
|v歩 ・ ・ ・v歩 ・ ・ 歩 ・|四
| ・v金 ・ 桂 ・v歩 歩 ・ ・|五
| 歩 歩v桂 銀 ・ ・ ・ ・ ・|六
| ・ ・ 玉 ・ ・ 歩 ・ ・ 歩|七
| ・v金 金 ・ ・ ・v飛 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・vと 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治棋王
先手の持駒:飛 角二 歩
【手数=100 △8八金打 まで】
図は後手が△8八金と打って詰めろをかけたところ。一見困ったように見えるが羽生棋王は絶妙手を用意していた。
答えは主催紙HPにアクセスしてご自身でご確認下さい。
あらためて羽生将棋の懐の深さを感じた棋王戦だったが、新鋭久保六段もよく戦ったと思う。今後の活躍が十分期待できる内容だったと思う。
[2001/03/20 01:30]
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