第27期棋王戦レポート

第1局

平行して行われている同一カードの王将戦は第2局まで進んでいて佐藤九段の2連勝。王者羽生五冠としてはこの辺りで歯止めを掛けたいところだろう。
佐藤先手で始まった(そう言えば羽生は振り駒に滅法強いのだが...)第1局戦型は角換りになった。先手は2六歩止めの腰掛銀を指向したのに対し後手は右玉の布陣を布いた。
後手は右玉作戦の性格上組み上がった後は6二金〜5二金をくり返し先手の打開を待つ展開になり、53手目先手が千日手を打開して仕掛けた。
何回か局所戦の後、先手の2二の馬と後手の左辺の金銀の二枚換えが行われた。これで大駒全てが後手の手に渡った。下図はその直後、後手が△8三香としたところ。
後手:羽生善治棋王
後手の持駒:角 桂 歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v飛 ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・|一
| ・ ・v玉 ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
| ・v香v金 ・ ・ ・ と ・ ・|三
|v歩v歩v歩v歩v歩v馬 ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・v龍|五
| 歩 歩 歩 歩 歩 ・ ・ ・ ・|六
| ・ 玉 銀 金 桂 歩 ・ ・ ・|七
| ・ ・ 銀 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光九段
先手の持駒:金二 銀二 桂 香 歩二 
【手数=128 △8三香打 まで】

図から▲6五桂打△8五歩▲7三桂成△同 玉▲6五桂△同 歩▲6四金と進んだ。
▲6五桂打は継ぎ桂の手筋だが、金を剥がした後の▲6五桂もこれまた6四の地点に空間をつくる手筋だ。そしてその空間に▲6四金と放り込んで見事に収束、▲6四金以下4手後139手で羽生が駒を投じた。

見事な収束で佐藤九段の充実ぶりが伺える。一方の羽生五冠は11期保持し続けてきた棋王戦も黒星スタートとなった。
本局に限って言えば受け主体の右玉を採用したこと自体、羽生棋王らしくないと思うのだが如何だろう?
#一言日記:週将を取る関係で毎日新聞を購読してるが、養老孟司氏の「時代の風」はオススメ。
[2002/02/03 23:40]
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第2局

3日前王将戦で対峙ばかりのこのカード、いよいよというべきかついに矢倉戦が登場した。
後手番で矢倉を受けた佐藤九段だが、後手番ならではの工夫の駒組を披露した。

後手:佐藤康光九段
後手の持駒:歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・v金v玉v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v銀 ・ ・|二
|v歩 ・ ・v歩 ・v金 ・v歩v歩|三
| ・ ・v歩 ・v銀v歩v歩 ・ ・|四
| ・v歩 ・ ・v角 ・ ・ ・ 歩|五
| ・ ・ 歩 歩 ・ ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 銀 金 ・ 歩 桂 歩 ・|七
| ・ ・ 金 角 ・ 銀 ・ 飛 ・|八
| 香 桂 玉 ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治棋王
先手の持駒:歩 
【手数=36 △5四銀 まで】

図の様に矢倉に組まないで稼いだ手数で5四銀の好型を作ったのがその工夫。
しかし薄い端を狙いにここで先手羽生棋王が▲1四歩△同 歩▲1三歩と動いた。
簡単に端が破れそうな雰囲気だったが、逆に1筋を逆襲され香損したところ(下図)では後手が余している感じがするが実際はどうなのだろうか?

後手:佐藤康光九段
後手の持駒:香 歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・v玉v桂 ・|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v歩 ・|二
| ・ ・ ・v歩 ・v金v銀 ・ ・|三
|v歩 ・v歩 ・v銀v歩v歩 歩v歩|四
| ・v歩 ・ ・v角 ・ ・ 飛 ・|五
| 歩 ・ 歩 歩 ・ ・ 歩 ・ ・|六
| ・ 歩 銀 金 ・ 歩 桂 ・v杏|七
| ・ 玉 金 角 ・ 銀 ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手:羽生善治棋王
先手の持駒:歩 
【手数=66 △1七同香成 まで】

図の数手前▲9六歩△9四歩といった不思議な間合いのあったが、実戦は以下▲5六金△6四角▲5五歩△1三桂▲2三歩成と進んだ。
△1三桂に飛車を逃げずに▲2三歩成としたのが強手だった。
99手で羽生の勝ち。いよいよ羽生の逆襲が始まった。
#一言日記:今年も天敵花粉症の季節がやって来た。2/16発症。
[2002/02/17 00:30]
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第3局

第3局、後手羽生棋王は四間飛車を採用した。対する先手佐藤九段は▲3六歩として後手の△6二玉を誘ってから居飛穴を目指す、と見せ掛けて...。
文に書くとややこしいので下図から棋譜で追ってみよう。下図は居飛穴明示の▲9八香を指したところ。▲3六歩が突いてあるのは前述したとおり。

後手:羽生善治棋王
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・v金 ・v桂v香|一
| ・v玉v銀 ・ ・v飛 ・ ・ ・|二
| ・v歩v歩v歩v歩v銀v角v歩v歩|三
|v歩 ・ ・ ・ ・v歩v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| ・ ・ 歩 ・ 歩 ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 角 歩 銀 歩 ・ ・ 歩|七
| 香 玉 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| ・ 桂 銀 金 ・ 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光九段
先手の持駒:なし
【手数=23 ▲9八香 まで】

図から△5四銀▲6六歩△3二飛▲5九角△4五歩▲5八金右△6四歩▲7八金△6五歩▲7七角。
▲7八金は本譜のように△6五歩と来た時に▲7七角と戻して強く応戦するための工夫で、仮に▲9九玉とした形から本譜の手順になった場合と比較すると玉形の安定度が全く違う。
それでも後手は△6五歩と開戦した。やはり居飛穴に組まれるのは癪ということだろう。本譜は居飛穴には組めなくなったが後手に仕掛けさせた意味合いが強く先手の思惑の範疇という気がする。

図は▲3二とと寄ったところ。先手は自然に飛車先の歩を伸ばしてと金にしている。△同金は金が離れるし△5二金左と逃げるのは▲2二飛と飛車を先着されて先手優勢がはっきりしそうだ。

後手:羽生善治棋王
後手の持駒:飛 歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・v金 ・v桂v香|一
| ・v玉v銀 ・ ・ ・ と ・ ・|二
| ・v歩v歩 ・v歩 ・ ・ ・v歩|三
|v歩 ・ ・ ・v銀 ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ 銀v歩 ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ 歩 歩v歩 ・ ・|六
| 歩 歩 桂 ・v馬 ・ ・ ・ 歩|七
| 香 玉 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| ・ ・ 銀 ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光九段
先手の持駒:飛 角 金 歩三 
【手数=63 ▲3二と まで】

図から△2八飛!▲4一と△6六歩▲6八金打△同 馬▲同 銀△6七金▲7九金打△7八金▲同 金△6九金と進んだ。
△2八飛が凄い手で金をボロっと取らせてしまった。更に馬を切って△6七金。これは千日手狙いかと思ったら△6九金と手を変えたのは後手の羽生。
どう解釈すれば良いのか?手を変えたということは自分が有利と判断したということか?これは分からない。
△6九金に先手は▲3八歩としたがこれは危険な手だった。△6八金▲同 金△2九飛成▲6九歩△6七歩成で食い付かれてしまった。
▲3八歩では▲7九金打とすれば千日手模様は更に続いていたはず。つまり△6九金が先手のミスを誘発したという見方も出来ると思う。
いずれにしろ、この金損承知の△2八飛と千日手模様の手を変えた△6九金に羽生将棋の恐さを見た気がする。
120手で羽生の勝ち。王将戦では1勝3敗と後がなくなった羽生だが棋王戦は先に2勝目をあげて防衛まであと1勝とした。
#一言日記:佐藤九段って受け将棋?
[2002/02/25 00:30]
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第4局

第4局は角換り腰掛銀。先手良しという見解のため最近めっきり見かけなくなった将棋だ。
角番にもかかわらず先手が良いとされている将棋を敢えて選択している佐藤九段の真意は?

後手:佐藤康光九段
後手の持駒:角 歩四 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・v玉v桂 角|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金 ・v香|二
| ・ ・v桂v金v歩 ・ ・v歩 ・|三
|v歩 ・ ・v歩v銀v銀v歩 ・ ・|四
| ・v歩v歩 ・ ・v歩 歩 ・v歩|五
| 歩 ・ ・ 歩 銀 ・ ・ ・ ・|六
| ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ 桂 ・ ・|七
| ・ ・ 金 ・ 金 ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 玉 ・ ・ ・ ・ 飛 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治棋王
先手の持駒:なし
【手数=55 ▲1一角打 まで】

図は▲1一角としたところ。定跡手順だ。以下△3五銀▲4五銀△2二角▲3三歩と進んだ。
▲1一角のところで△2二角と合わせるのは▲同角成△同玉で玉が戦場に近くなる。そこで△3五銀▲4五銀の交換をしてから時間差で△2二角としたのが佐藤九段の用意していた手だった。
新手が実を結び、一方的に先手に攻め潰されると懸念される形勢を脱し後手凌いだかと思われる局面も登場したが、反撃のタイミングがやや疑問だったらしく97手で羽生棋王が勝利した。

これで羽生棋王は12連覇ということになる。凄い記録だ。
平行して進行している王将戦は現在佐藤九段の3勝2敗。こちらは羽生の牙城を崩すことができるだろうか?
#一言日記:「今年最悪の杉花粉が舞っている」と目と鼻が訴えていた一日だった。
[2002/03/08 01:50]
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