第28期棋王戦レポート

第1局

過密なスケジュールのなか、王将戦の3連勝で勢い付いた感のある羽生棋王に挑戦するのは、名人失冠以来の久々のタイトル戦登場の丸山九段。
羽生先手で始まった第一局は横歩取り中座飛車になった。このシリーズ、丸山九段の後手番なら中座飛車、先手番なら角換り。これで決まりだろう。

下図は▲7五歩に△6二銀としたところ。

後手:丸山忠久九段
後手の持駒:角 歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・v金v玉 ・ ・v香|一
| ・ ・ ・v銀 ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・v歩v歩v歩v歩v桂 ・v歩|三
| ・v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・ ・|六
| 歩 歩 桂 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ ・ 金 ・ 玉 ・ 金 ・ ・|八
| 香 ・ 銀 ・ ・ ・ 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治棋王
先手の持駒:角 歩二 
【手数=30 △6二銀 まで】

ここから▲7四歩△4四歩▲8六歩と進んだ。
この図を選んだのは特に意味はない。手の意味を解説できる訳ではないが、この辺りが新しい指し方ということなので、載せてみた。

少し進んで下図。△2八金▲同金と手筋の歩で先手陣の形を乱したところ。

後手:丸山忠久九段
後手の持駒:歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・v金v玉 ・ ・v香|一
| ・v飛 ・v銀 ・ ・v金v銀 ・|二
| ・ ・ ・v歩 ・ ・v桂 ・v歩|三
|v歩 ・v歩v角v歩v歩 ・ ・ ・|四
| ・v桂 ・ 桂 ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・v歩 ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 ・ ・ 金 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ ・ ・ 銀 玉 銀 ・ 金 ・|八
| 香 飛 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治棋王
先手の持駒:角 歩三 
【手数=51 ▲2八同金 まで】

ここから△4二角▲8三歩△同 飛▲7三歩△6四歩▲7二角△8四飛▲5四角成△6五歩▲7二歩成△5三銀▲6三馬△5二金▲7三馬と進んだ。
角を引いて△6四歩から桂馬を取りに行く狙いだが、どうだったか。確かに桂馬は取れたが、その間に先手に一仕事されてしまったという気がする。最終手の▲7三馬の飛車取りがとても厳しく、この辺りで優劣がはっきりしたようだ。

99手で羽生の勝ち。過密スケジュールもなんのその。王将戦といい圧倒的な強さを感じる。

#一言日記:十数年乗っていた車をこの春こそは買い替えようと思っている、今日はWISHを試乗して来たが、今の車にくらべればおよそどんな車も良く思えるのであまり試乗の意味がなかったかも。
[2003/02/01 24:00]
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第2局

2局連続で土曜日開催ということで、ちょくちょくネットを覗いていたが37手目から局面の更新が途絶えてしまった。
見出しでが「後手の羽生は連勝」になったので結果は分かったのだが、「棋譜再現」をクリックしても相変わらず37手目。棋譜が更新されたのは夜になってからだった。

本局は居飛穴v藤井システムとなった。居飛穴といっても先手の組み方には工夫が見られるので、そのあたりをスポットしてみる。下図は▲9八香と居飛穴宣言したところ。
▲3六歩を見て後手は玉を6二→7一と移動、それを見て先手は▲9八香。居飛穴と藤井システムの間でよく見られる応酬だ。

後手:羽生善治棋王
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v玉v金 ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・v銀 ・v金v飛 ・ ・ ・|二
| ・v歩v歩v歩v歩v銀v角v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・v歩v歩 ・ ・|四
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| ・ ・ 歩 ・ 歩 ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 角 歩 銀 歩 ・ ・ 歩|七
| 香 玉 ・ ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八
| ・ 桂 銀 金 ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:丸山忠久九段
先手の持駒:なし
【手数=25 ▲9八香 まで】

ここから、△3二飛▲7八銀△8二玉▲6六銀△4五歩▲9九玉△5四銀▲6八金寄△6四歩▲7九金△3五歩▲5五銀と進んだ。
△3二飛もこの形の定番。対して先手は▲7八銀と一旦美濃に。ここまではまあ分かるとして、ここから先の先手の駒組が何とも不可解だった。
▲6六銀は展開によっては引き角から7七→8八と穴熊のハッチに使うのかと思っていたら、▲6八金寄で引き角の意志はなさそう。さらに▲7九金と肝心なハッチのない穴熊が完成した。
既に最善形の後手は当然△3五歩と仕掛けるが、▲5五銀とぶつけた。もしかして銀交換した銀を8八に埋めて穴熊を完成させるつもり??

下図は投了図。後手が普通に応戦して何の労もせず、中押し勝ちという印象がある。ちなみに8八の銀は打った銀だ。確かに銀を打って穴熊パズルは完成したけど、将棋は玉を詰ますゲームだからね ぇ。
本局は先手の構想があまりにも悪すぎた一局だったと思う(ろくな検証もしないで言い過ぎかも)。

後手:羽生善治棋王
後手の持駒:香 歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・ ・ ・ とv香|一
| ・v玉v銀 ・v金v歩 ・ ・ ・|二
| ・v歩v歩 ・ ・ ・v桂 ・v歩|三
| ・v銀 ・v歩v歩 歩 角v歩 ・|四
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ 飛 ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 ・vと ・ ・ 歩|七
| 香 銀 銀 金 ・ ・ ・ ・ ・|八
| 玉 桂 金 ・ ・v龍 ・ ・v馬|九
+---------------------------+
先手:丸山忠久九段
先手の持駒:桂 
【手数=86 △4二歩打 まで】

これで棋王戦も羽生の連勝スタートとなった。羽生は名人戦も僅かながら挑戦の目がある。羽生旋風再びか?

#一言日記:コロンビアが堕ちた。チャレンジャーは打ち上げ時、今回は降下時。スペースシャトルに重大なトラブルが起きる可能性は数百分の一という試算があるらしい。ガンダムはいとも簡単に大気圏突入をやってのけるが、現代科学もこのあたりが限界、宇宙飛行士は今だ命がけの仕事ということか。
[2003/02/09 00:50]
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第3局

丸山九段後手の第3局は当然のように横歩取り中座飛車となった。25手目に先手の羽生棋王が▲5六飛として第1局と分かれを告げた。

図は△4四角としたところ。先手はここで意表の仕掛けを決行した。

後手:丸山忠久九段
後手の持駒:歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・v金v玉 ・v桂v香|一
| ・ ・ ・v銀 ・ ・v金v銀 ・|二
| ・ ・v桂v歩v歩v歩 ・ ・ ・|三
|v歩 ・v歩 ・ ・v角 ・ ・v歩|四
| ・v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| 歩 ・ 歩 ・ 飛 ・ 歩 ・ ・|六
| ・ 歩 角 歩 歩 歩 桂 ・ 歩|七
| ・ ・ 金 ・ 玉 銀 金 ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治棋王
先手の持駒:歩二 
【手数=36 △4四角 まで】

ここから▲9五歩△3三銀▲9四歩△9七歩▲同 香△6五桂▲4四角△同 銀▲3五歩△9八角▲9六角△8四飛と進んだ。
ここでの▲9五歩はちょっと思い付かない手だ。というのも反撃が厳しいからだ。中住まいの先手玉に対し中原誠囲いの後手玉は9筋から遠く、よほどの成果が見込めないと一気に形勢を損ねてしまいそう。
8筋を破られては不利になるので▲9六角と狭いところに角を放って耐えたがこの辺りで後手ペースになった感じがする。

96手で丸山九段が勝って踏ん張った。久しぶりにタイトル先で先手番の羽生が負けた一局となった。

#一言日記:現在地方TV局千葉テレビでスタートレックボイジャーが怒濤の勢いで放送されている。隠れトレッキーの自分にしれみれば嬉しいことだ。「スタートレックファクトファイル」というのも発売されて創刊号を思わず買ってしまった。
[2003/02/23 00:30]
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第4局

若干20歳で南芳一棋王から棋王位を奪取した羽生は、27期までで棋王戦12連覇。なんとここまで先手番無敗というから凄い。第2局で丸山九段は先手番での連勝記録をストップしたことになる。

丸山九段先手の本局は角換り腰掛銀となった。となれば下図まではこうなるところだろう。

後手:羽生善治棋王
後手の持駒:角 歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・v玉v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・v金 ・v金 ・ ・|二
| ・ ・v桂 ・v歩 ・ ・v歩 ・|三
|v歩 ・v歩v歩v銀v銀v歩 ・v歩|四
| ・v歩 ・ ・ ・v歩 歩 歩 ・|五
| 歩 ・ 歩 歩 銀 ・ ・ ・ 歩|六
| ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ 桂 ・ ・|七
| ・ ・ 金 ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 玉 ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:丸山忠久九段
先手の持駒:角 
【手数=42 △4四銀 まで】

ここから▲2四歩△同 歩▲同 飛△2三歩▲2八飛△6五歩▲同 歩△8六歩と進んだ。
7筋と5筋の突き捨てを入れずに単に飛車先の歩を交換する手法は第52期王将戦第3局(佐藤●−○羽生)でも出現したので記憶に新しいところだ。
王将戦では△8六歩のところで△7五歩として、佐藤王将の準備していたと思われる▲6四角が出現した。▲6四角以降後手が悪くなった訳ではないが、△8六歩の突き捨ては▲6四角を打ち難くする狙いだろう。

少し進んで下図は△2六香と打ったところ。ネット中継の控え室掲示板では、この△2六香で早くも後手優勢か、との声もあがった。

後手:羽生善治棋王
後手の持駒:角 金 歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|一
| ・v飛 ・ ・v金 ・v金v玉 ・|二
| ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・v歩v桂|三
|v歩 ・ ・ ・v銀v銀v歩 ・ 歩|四
| ・ ・v歩 ・ ・v歩 歩 ・ ・|五
| 歩 歩 ・ ・ 銀 ・ ・v香 ・|六
| ・ ・ 桂 ・ 歩 ・ 桂 ・ ・|七
| ・ 玉 ・ ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八
| 香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手:丸山忠久九段
先手の持駒:角 銀 桂 香 歩五 
【手数=78 △2六香打 まで】

ここから▲同 飛△6九角▲1三歩成△3一玉▲7八銀と進んだ。
△2六香▲同 飛△6九角に5八の金を▲6八金とするのは△8六飛▲7九玉△6七歩があるので一見先手が困ったかに見える。しかし▲7八銀と金を見捨てる手があった。
これで意外に大変で先手玉を寄せることが出来なければ▲2三とがすこぶる速い。
実際この後、△9五歩とやや緩い手を指さざるを得なくなり、▲2三が回って117手で丸山が勝って2連敗後の2連勝で遂に追い付いた。腰掛銀のスペシャリストの面目躍如だ。
これはひょっとするとひょっとするかも。

#一言日記:このレポートは控え室掲示板を参考にさせてもらっているが、対局中では絶賛だった△2六香が局後は敗着とされており、180度違った見解になっているのに驚いた。これが羽生ブランドというものだろうか!?
[2003/03/06 02:30]
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第5局

羽生棋王の2連勝で始まった第28期棋王戦だが、挑戦者丸山九段がついに追い付いて、勝負は最終ラウンドを迎えた。
羽生先手の本局は例の戦法になった。32手目までは第1局と同一進行。33手目先手が▲8六飛とぶつけて、ようやく違う将棋になった。
図は飛車交換の後、先手が飛車と角を敵陣に打ち込んだところ。
後手:丸山忠久九段
後手の持駒:飛 角 歩三 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・v金v玉 ・ ・v香|一
| ・ 飛 ・v銀 ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 角v桂v歩v歩 ・v桂 ・v歩|三
| ・ ・v歩 ・ ・v歩 ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 ・ 桂 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ ・ 金 ・ 玉 ・ 金 ・ ・|八
| 香 ・ 銀 ・ ・ ・ 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治四冠
先手の持駒:歩二 
【手数=39 ▲8三角打 まで】

ここから△8四飛▲8八銀△8六飛▲8七歩△8四飛▲8一飛成△4五角と進んだ。
ちょっと奇異に見える△8四飛が先手の攻めを止める好手だったようだ。△4五角も攻防の好手で後手が指し易くなった。

敵陣に放った大駒より、敵陣ではない所に打った大駒の方が有効打だったことが印象に残る一局となった(してみると図の▲8三角が疑問手だった?)。

61手の短手数で横歩取りのスペシャリスト丸山が勝って、新棋王が誕生した。羽生はこの将棋に勝てば大山康晴十五世名人と並ぶ13連覇になるところだったが、果たせなかった。

#一言日記:20日は新車WISHの納入日だった。同じ日に戦争が始まった。
[2003/03/22 02:20]
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