第29期棋王戦レポート

第1局

羽生の独壇場だった棋王戦だが、今期はその羽生から棋王位を奪取し初防衛に挑む丸山棋王と、谷川王位の対決となった。谷川は11期ぶりの棋王戦登場。
両雄の対戦ということで、角換りか横歩取りの将棋が予想されるが、先のA級順位戦では意外にも矢倉戦だった(この将棋を丸山が制した結果、2局を余して森内竜王の名人戦挑戦が決まっている)。さて本局も伝家の宝刀ではなく相掛り系の将棋になった。
図はその中盤戦。ここから後手が動いた。

後手:丸山忠久棋王
後手の持駒:角 歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一
| ・ ・v銀 ・ ・v玉v金 ・ ・|二
| ・ ・v桂 ・v歩v歩v桂v銀v歩|三
|v歩v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・v金v歩 ・ 歩 ・v歩 歩|五
| 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 飛|六
| ・ 歩 銀 歩 歩 ・ 歩 ・ ・|七
| ・ ・ 金 玉 金 ・ 銀 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:谷川浩司王位
先手の持駒:角 歩四 
【手数=55 ▲4五歩 まで】

ここから△6六歩▲同 銀△7六金▲5九玉△4五桂▲4八玉△2六歩▲同 飛△2八歩▲同 飛△8七金と進んだ。
△6六歩と突き捨てて△7六金から△8七金を目指すが、△8七金で飛車筋が破れる訳ではない(▲8五歩〜7六角の筋で金を抜ける)ので非常手段といえる。

本譜も金を見捨てて先手玉に迫る展開になった。図は終盤戦。先手玉はかなり危うく見えるが、残っている。

後手:丸山忠久棋王
後手の持駒:歩三 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一
| ・ ・v銀 ・ ・v玉v金 ・ ・|二
| ・ ・v桂 ・v歩v歩 歩 ・v歩|三
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ 歩 ・ ・ ・ ・v銀v飛 歩|五
| 歩 ・ ・ 銀 ・ 歩 ・ ・ ・|六
| ・ 金 ・ 歩 歩 ・ ・ 玉 ・|七
| ・ ・ ・ ・ 金 ・ 銀 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・v飛 桂 香|九
+---------------------------+
先手:谷川浩司王位
先手の持駒:角二 金 桂 歩四 
【手数=90 △2五同飛 まで】

▲1六玉△2六飛▲1七玉△3三金▲4八金△3七歩▲5四桂△同 歩▲6四角と進んだ。
谷川王位はなんとも綱渡りのような玉捌きで凌ぎ、▲5四桂から▲6四角で寄せ形を作って引導を渡した。

121手で谷川王位の勝ち。2冠目のタイトルに向けて好スタートを切った。

#一言日記:棋王戦は積極的に休日にタイトル戦を行なう方針のようだ。ネット中継も行なっておりなかなか良いことだと思う。
[2004/02/09 00:00]
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第2局

第2局は横歩取りの将棋になった。両雄の戦いでファンが見たいのはやはりこの横歩取りだろう。
将棋は中座飛車の中でも積極的な序盤戦となった。下図は後手が8筋の合わせ歩から横歩を取ったところ。自陣の整備はほどほどに、既に戦いが始まっている。

後手:谷川王位
後手の持駒:角 歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金 ・v玉 ・ ・v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・ ・v歩v歩v歩v桂 ・v歩|三
| ・ ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・|五
| ・ ・v飛 ・ ・ ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 ・ 桂 歩 歩 歩 桂 ・ 歩|七
| ・ 銀 金 ・ 玉 ・ ・ 飛 ・|八
| 香 ・ ・ ・ ・ 金 銀 ・ 香|九
+---------------------------+
先手:丸山棋王
先手の持駒:角 歩三 
【手数=40 △7六飛 まで】

図から▲3八銀△5五角▲4六角△同 角▲同 歩△3五歩▲2五桂△同 桂▲同 飛△3四角と進んだ。
この辺りは互い研究手が繰り出されているようだが、△3四角まで進んだ局面では次の△6六桂が厳しく後手がうまくやったのではないかと思われた。

図は終盤戦。△3四角の局面では後は光速の寄せを見るばかりと思われたが意外と決め手がなかったようだ。確かに図では後手の金桂交換の駒得だが、入手した金は4四に打ってしまっており攻めに窮しているようにも思える。

後手:谷川王位
後手の持駒:桂 歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・v銀v金 ・v玉 ・ ・v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・ ・v歩v歩v歩 ・ ・v歩|三
| ・ ・v歩 ・ ・v金v角 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・v飛 歩 ・ ・|六
| 歩 ・ 銀 歩 歩 ・ ・ ・ 歩|七
| ・ 龍 玉 ・ ・ ・ 銀 ・ ・|八
| 香 ・ ・ ・ ・ 金 ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:丸山棋王
先手の持駒:角 桂三 歩六 
【手数=68 △4六飛 まで】

図から、▲5九桂△7五歩▲4七銀と進んだ。
▲5九桂が丸山棋王らしい柔らかい受けで、これで受かっている。光速の寄せがポッキリ折れてしまった。
83手で丸山棋王の勝ち。横歩取りが出たので次は角換りか?

#一言日記:昨日は得に予定もなく家に居たのだが不覚にも棋王戦第2局があるのを忘れてました。
[2004/02/23 23:30]
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第3局

第3局も第2局同様横歩取り中座飛車。例によって定跡最前線の変化らしい。

図は△2八角としたところ。互いに角を打ち合った角のどちらがより有効打なのか。また狭そうな飛車は敵にどれほどの驚異あるいは攻めの目標になっているか。
中座飛車特有の大駒+桂の捌きに注目したい局面だ。

後手:丸山忠久棋王
後手の持駒:歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・v金v玉 ・ ・v香|一
| ・ ・ ・v銀 ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・v桂v歩v歩v歩v桂 ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・v飛 ・ 歩 ・ ・|四
| ・ ・v歩 ・ ・ ・ ・v歩 ・|五
| ・ ・ 歩 ・ 角 歩 ・ ・ 飛|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 ・ 桂 ・ 歩|七
| ・ ・ 金 玉 ・ ・ 銀v角 ・|八
| 香 桂 銀 ・ ・ 金 ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:谷川浩司王位
先手の持駒:歩 
【手数=44 △2八角打 まで】

ここから▲1八香△1九角成▲3三歩成△同 銀▲4五角△9四飛▲7五歩△1四歩▲7四桂と進んだ。
先手はとりあえず桂得を果たすが、いかにも飛車が狭い。最悪歩で召し捕られてしまうかも知れない。という訳でこの辺りは桂損でも飛車を攻める手順がある後手のペースかと思っていたが、そうではなかったようだ。

図は大詰めの終盤戦。後手は1六の飛車を取ったものの代償も大きい。8九に飛車を下ろして取りあえず詰めろだが、ここでは大勢きっしている。
後手:丸山忠久棋王
後手の持駒:金 歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 全|一
| ・ ・v歩v金v玉 ・ と ・ ・|二
|v歩 馬 とv歩v歩v歩 ・ 歩 ・|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v飛v銀 ・|四
| ・ ・v香 ・ ・ ・ ・v歩 ・|五
| ・ ・ ・ ・ 香 歩 ・ ・v歩|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 ・ 桂 ・ 歩|七
| ・ ・ ・ 玉 ・ ・ 銀 ・v馬|八
| 香v飛 銀 ・ ・ 金 ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手:谷川浩司王位
先手の持駒:金 桂三 
【手数=90 △8九飛打 まで】

ここから▲4四桂と桂馬を打ったのが「らしい手」で決め手となった。

103手で谷川王位の勝ち。奪取まであと1勝に迫った。

#一言日記:もう3月だ。例年この時期は花粉症で気合いが乗らないが、期末とあってそうも言ってられない。明日から気合いを入れて行こうと思う(と日記には書いておこう)。
[2004/03/01 01:00]
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第4局

第4局は角換り腰掛け銀。両雄が最も得意としている戦法の一つだが、勝ち難いとされる後手は互いに受け難いし、丸山棋王には中座飛車がある。出るとしたら谷川王位が後手番の本局でしょう。

図は仕掛けの周辺。△7五歩の前に8筋の突き捨てを入れるかどうかは難しいところだが、本譜は入れなかった。
△7五歩の前に△8六歩を入れると全く別の将棋になり、新しいところでは第53期王将戦第6局羽生vs森内(森内の勝ち)がある。

後手:谷川浩司王位
後手の持駒:角 歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・v玉v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・v金 ・v金 ・ ・|二
| ・ ・v桂 ・v歩 ・ ・v歩 ・|三
|v歩 ・ ・ ・v銀v銀v歩 ・v歩|四
| ・v歩v歩 歩 ・v歩 歩 ・ ・|五
| 歩 ・ 歩 ・ 銀 ・ ・ ・ 歩|六
| ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ 桂 ・ ・|七
| ・ ・ 金 ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 玉 ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:丸山忠久棋王
先手の持駒:角 歩二 
【手数=50 △7五歩 まで】

本譜は▲6四角△6三金▲7五角△8六歩▲同 角△6五桂▲6四歩と進んだ。
本譜の様に△6四角△6三金▲7五角としたのは第52期王将戦第3局佐藤vs羽生(羽生の勝ち)がある。
類似形の佐藤vs羽生戦では▲7五角以下△8六歩を入れないで△6五銀▲4五銀△同桂▲同桂△4四銀と進んでいる。当時は△4四銀の局面は意外に先手に手がなく後手優勢ではないか、とのことだった。
本譜は▲6四角△6三金▲7五角に△8六歩とした。この辺りの手の善悪はもとより手の意味さえも良く分からない、というのが正直なところ。

角換り特有のスピード重視の難解な将棋となった。下図は終盤。一見後手は先手玉を挟撃大勢に追い込んでいるように見えるが。
後手:谷川浩司王位
後手の持駒:桂 歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v玉 ・|二
| ・ ・ ・v銀 馬 歩 ・v歩 ・|三
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・v歩|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v銀 ・ ・|五
| 歩 歩 歩 ・ 銀 飛 桂 ・ 歩|六
| ・ ・v馬 ・ 歩 ・ 桂 ・ ・|七
| ・vと ・ 金 金 ・v金 ・ ・|八
| 香 ・ ・ ・ 玉 ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:丸山忠久棋王
先手の持駒:銀 歩六 
【手数=90 △2二玉 まで】

ここから▲4二歩成△同 飛と進んだ。
▲4二歩成が痛恨の敗着で△同飛と取られて先手は困った。ここか▲3五馬とすれば依然形勢不明だったようだ。
96手で谷川の勝ち。実に16期ぶり(それだけ長く羽生が棋王位を独占していたということが分かる)に棋王位を奪取した。丸山は残念ながら初防衛はならず無冠となった。
これで7つのタイトルを羽生(名人王座)森内(竜王王将)谷川(棋王王位)が2つづつ持つことになった。

#一言日記:これを書いている時に、いかりや長介さんの訃報をTVで知った。合掌。
[2004/03/21 01:00]
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