第32期棋王戦レポート

第1局

森内棋王名人に挑むのはまたしても佐藤棋聖。つい3日前には羽生王将と王将戦を戦っており超過密スケジュールだ。両雄のタイトル戦は意外にも第75期棋聖戦以来2回目。
森内としては名人戦が控えている。佐藤藻そろそろ結果を出したいところ。互いに負けられない5番勝負だ。

後手一手損角換りから、先手は早繰り銀、後手は腰掛け銀の構えに。面白いけど難解な将棋になった。
図は▲5六歩に△4五銀と腰掛け銀を動かしたところ。

後手:森内俊之棋王
後手の持駒:角 歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金v玉 ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金 ・ ・|二
| ・v歩v歩 ・v歩v歩v銀v歩 ・|三
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩|四
| ・ ・ ・v歩 ・v銀 銀 歩 ・|五
| 歩 ・ 歩 ・ 歩 ・ ・ ・ 歩|六
| ・ 歩 銀 歩 ・ 歩 ・ ・ ・|七
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ 金 玉 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖
先手の持駒:角 歩 
【手数=28 △4五銀 まで】

ここから△4五銀▲6三角△6四角▲5五歩△5四銀▲8五角成△8四歩▲7五馬△同角▲同歩△6三銀と進んだ。
一見馬を無条件で作られて後手がまずそうだがアクロバティックな手順で先手の馬を消すことに成功した。こうなると5筋の歩を突いてしまっている先手がまとめにくい気がする。

図は△4四角としたところ。5筋の歩を延ばした先手の意図が明らかとなる。

後手:森内俊之棋王
後手の持駒:銀 歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金v玉 ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金 ・ ・|二
| ・ ・v歩v銀v歩v歩 ・v歩 ・|三
|v歩 ・ ・ ・ ・v角 ・ ・v歩|四
| ・v歩 歩v歩 歩 ・ ・ ・ ・|五
| 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩|六
| ・ 歩 銀 歩 ・ 歩 ・ ・ ・|七
| ・ ・ ・ 金 ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ ・ 玉 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖
先手の持駒:角 銀 歩二 
【手数=48 △4四角 まで】

ここから▲4五角△6二玉▲5八飛△8六歩▲同歩△8八歩▲同銀△8六飛▲8七歩△2六飛▲2八歩△3六銀▲同角△同飛▲4五銀△2六角と進んだ。
▲5八飛と大砲を5筋に構えるのが先手の構想だったようだ。ただし本譜のように後手にも飛車を2筋に展開され、▲2八歩と謝ることを強要された。
△3六銀と先手の角を捕獲するが、▲同角△同飛▲4五銀で飛角両取り。しかし更に△2六角の王手で▲4五銀が空に切った形になったようにも思えた。

この後もアクロバティックな面白い展開が続いたが、指運が先手にあったようで115手で佐藤の勝ちとなった。
解説を見ないと理解不能の面白い将棋だったが、佐藤はともかく森内らしくないジャンルの将棋になってしまった気がする。

#一言日記:11日は子供のリクエストで電車で東京のポケモンセンターに行った。オリジナルポケモンをプレゼントするということで長蛇の列(プラカードには4時間待ち)。で並んだ訳だが、オリジナルポケモンをゲットするだけだったら並ばすにポケモンセンターのネットワーク圏内に入れば済むことだった。
[2007/02/12 23:45]
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第2局

第1局はアクロバティックな将棋で魅了してくれたが、本局の序盤も見たことのない将棋となった。
戦型は、後手佐藤棋聖の角道を開けたままの力戦四間飛車に。図は先手は飛車先の歩を切ったところ。

後手:佐藤康光棋聖
後手の持駒:歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金v玉v金v銀v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・v飛 ・v角 ・|二
| ・v歩v歩v歩v歩v歩 ・ ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 飛 ・|四
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ 角 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:森内俊之棋王
先手の持駒:歩 
【手数=11 ▲2四同飛 まで】

ここから△8八角成▲同銀△2二飛▲同飛成△同銀▲2八飛△3二金▲6五角△8二飛▲5六角△2三歩▲3四角△4二飛と進んだ。
後手自ら角交換し、向飛車して飛車をぶつけた。先手は飛車交換から▲2八飛の自陣飛車と▲6五角の筋違い角。後手も△8二飛と自陣飛車...。
紆余曲折を経て四間飛車になったが、結局先手の筋違い角戦法に、後手が無理矢理振り飛車にした将棋に似た展開になった。
第一人者同士の対局だけあって、めまぐるしい展開であるにもかかわらず、均衡が保たれてるのは至芸だ。しかし、この後の展開は後手に明瞭な狙いがない将棋になってしまい、角を手放してしまっているものの、先手が作戦勝ちになったと思う。

これで1勝1敗のタイになり、面白くなってきた。

#一言日記:来週の「世界一受けたい授業」に羽生三冠が登場する。必見です。
[2007/02/27 00:15]
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第3局

後手番を苦にしないことは大きなメリットだと思う。近年力戦派に転身した佐藤棋聖は、後手番を苦にしない棋士の一人だと思う。森内棋王はどうだろう。棋王戦を見る限り後手番にかなりのプレッシャーを感じているのではないだろうか。
森内後手番の第3局、後手森内は5筋の位を取って矢倉中飛車の布陣を取った。
図は中盤戦。▲3四歩と垂らしたところ。先手は自然体だ。

後手:森内俊之棋王
後手の持駒:歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・v玉 ・v桂v香|一
| ・ ・ ・v金v飛 ・v金v角 ・|二
|v歩 ・ ・ ・ ・v歩 ・v歩 ・|三
| ・ ・v歩v銀v銀 ・ 歩 ・v歩|四
| ・v歩 ・v桂v歩 ・v歩 ・ ・|五
| ・ ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 金 歩 銀 桂 ・ 歩|七
| ・ ・ 金 角 ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 玉 ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖
先手の持駒:歩 
【手数=49 ▲3四歩 まで】

ここから△3六歩▲同銀△5六歩▲同歩△6六角▲同金△5七銀▲9五角と進んだ。
角をたぎって銀打ち。条件が揃えば成立する場合もあるが、プロ将棋ではまず成立しない順だ。
やはり無理筋だったようで、的確に咎められた。本譜は9五に角が出られるのが大きい。

森内は名人戦に向けて後手番のフォームを作っているのかもしれない。
#一言日記:先週末は、家族で富士急ハイランドに行って来た。長男はアイススケートに挑戦。滑れないでべそをかくかと思いきや、意外と楽しんでいたようだ。ガンダムのショップがあったと記憶していたが、2月で閉店してしまったらしい。
[2007/03/13 01:15]
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第4局

本局は後手佐藤棋聖が、第56期王将戦第7局(羽生○vs●佐藤)と同様の作戦を選択した。自ら角交換して向飛車に振る例のヤツだ。
観てはいないが、NHK杯決勝(佐藤○vs●森内:佐藤優勝)も先後の違いはあるけれどいきなりの向飛車だった。

図は向飛車を咎めるべく▲6五角としたところ。もっとも、後手も▲6五角は先刻承知で誘っているのだが。
先の王将戦第7局とは先手が端歩を受けなかったので△9五歩と突き越しているところが違う。

後手:佐藤康光棋聖
後手の持駒:角 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金v玉v金 ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v飛 ・|二
| ・v歩v歩v歩v歩v歩v銀v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・|四
|v歩 ・ ・ 角 ・ ・ ・ 歩 ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ 銀 玉 ・ ・ 銀 ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ 金 ・ 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:森内俊之棋王
先手の持駒:なし
【手数=15 ▲6五角 まで】

ここから△7四角▲4三角成△5二金右▲同馬△同金▲7五金と進んだ。
△7四角〜△5二金右は後手用意の手順で馬の行き場がない。しかし▲5二同馬〜▲7五金で後手の角も死んだ。
先手の一歩得、後手は金を持ち駒にしているのが主張か。

森内棋王は本譜の進行にさほど自信があったわけではなさそうだが、薄くなった4筋から戦線拡大すれば良いという明確な方針もある。後手は守りの金が一枚いないので陣形をまとめにくい。実際先手の駒得だし、先手が指し易い将棋だと思う。ただし佐藤棋聖は望んで力戦形にしているという一面はある。

図は△3五歩と突き捨てたところ。ここから後手が果敢に仕掛けた。しかしこれは果敢と言うより無謀とも思える。

後手:佐藤康光棋聖
後手の持駒:角 金 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・v玉v金 ・ ・v飛 ・|二
| ・v歩v桂v銀v歩 ・ ・v歩 ・|三
| ・ ・v歩v歩 ・v銀 ・ ・v歩|四
|v歩 ・ ・ ・ ・ 桂 歩 歩 ・|五
| ・ ・ 歩 ・ 歩 歩 ・ ・ 歩|六
| 歩 歩 ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・|七
| ・ 銀 玉 ・ 金 銀 ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ 金 ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:森内俊之棋王
先手の持駒:角 歩二 
【手数=39 ▲3五同歩 まで】

ここから△7五歩▲同歩△4二飛▲3四角△3五銀▲3八飛△4四角▲5二角成△同銀▲5五金△4六銀▲3一飛成と進んだ。
更に7筋も突き捨ててしまった佐藤棋聖。居飛車感覚の激しい手順だが有効打ではなく、▲3四角で困っている気がする。
本局2度目の5二の地点での角金交換から▲5五金で決まった。

これで2−2のタイに。勝負は最終局に持ち越された。

#一言日記:ボナンザ戦は渡辺竜王の勝利に終わったが、薄氷の勝利という感じだ。なんでも最近のコンピュータはしらみつぶしの局面評価に耐えうるスピードの計算能力ということらしく、ボナンザも全方位検索型のアルゴリズムだと聞く。将棋ソフトの飛躍的な進歩はハードウエアの進歩によるところが大きいと思う。こうなるとプロが負けてしまうのも時間の問題だと思う。例えそういう事態になったとしてもプロ棋士の価値が色褪せるわけではない。

[2007/03/25 22:50]
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第5局

棋士は、得に一流棋士はかくも頑固なのか。後手番森内棋王は第2局に佐藤棋聖がとった力戦四間で最終局を迎え撃った。
図までは第2局と同様に進んでいる。ここで第2局は▲同飛成といって摩訶不思議な将棋になった。

後手:森内俊之棋王
後手の持駒:角 歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金v玉v金v銀v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v飛 ・|二
| ・v歩v歩v歩v歩v歩 ・ ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 飛 ・|四
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ 銀 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖
先手の持駒:角 歩 
【手数=14 △2二飛 まで】

ここから▲2三歩△4二玉。第2局と別れを告げた。
▲2三歩はある手だが、この歩は後で後手に取りきられてしまうかもしれない。実際本局も2三を歩を取りに行く将棋となった。


図は△4六飛と4筋の歩を切って飛車を走ったところ。
2三の歩は後手の持駒になっているが、角を手放し、さらに金が2三にいる。愚形だ。

後手:森内俊之棋王
後手の持駒:歩四 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金 ・ ・v銀 ・v香|一
| ・ ・v玉 ・v角 ・ ・ ・ ・|二
| ・v歩v歩v歩v歩 ・v桂v金v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・v飛 銀 ・ 歩|六
| 歩 歩 銀 歩 歩 ・ ・ ・ 桂|七
| ・ 玉 金 ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖
先手の持駒:角 歩 
【手数=46 △4六飛 まで】

ここから▲4七角△3四金▲4八飛△3五歩▲8三角成△同玉▲4六飛△3六歩▲2一飛と進んだ。
▲4七角は本譜のように飛車を素抜く狙い。後手の△3四金〜△3五歩は最強の応手で、なお、素抜きを狙うと本譜のように銀得する狙いだが、先手は意に介せず、素抜きを決行した。
しかし、銀損するものの飛車を持駒にするのは大きく、ここで先手に形勢が傾いた。

本局を制して佐藤は5回目の棋戦挑戦でようやくタイトル奪取に成功し、2冠になった。とはいうものの最優秀棋士賞に相応しい活躍ぶりだった。
一方の森内は名人位の1冠のみになったが、間を置かずに永世名人が掛かった名人戦防衛戦が始まる。休んでいる暇はない。

#一言日記:29日は日帰り大阪出張だった。平素は8時位に起床しているが、羽田発7時のフライトに間に合うように4時起きだった。前日の送別会もあってとても辛かった。
[2007/04/02 00:20]
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