第1局
渡辺竜王に挑戦するのは、タイトル戦初登場の木村一基七段。数少ない勝率7割以上の棋士だ。両雄の対決とあって中座飛車シリーズになると予想されているが、第一局は一手損角換りとなった。
一日目は45手目まで進んだが、過去に例がある展開。さらに下図まで第76期棋聖戦第1局(羽生○vs●佐藤)や第46期王位戦第7局(佐藤●vs○羽生)と同様に進んだ。
後手:渡辺明竜王
後手の持駒:角 歩
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v飛 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v金v玉 ・|二
| ・ ・ 角 ・v歩v金v銀v歩 ・|三
| ・v歩v歩 ・v銀 ・v歩 ・v歩|四
| 歩v桂 ・ 歩 ・ 歩 ・ 歩 ・|五
| ・ 銀 歩 ・ 銀 ・ 歩 ・ 歩|六
| ・ 歩 ・ ・ 歩 ・ 桂 ・ ・|七
| ・ 玉 金 ・ 金 飛 ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:木村一基七段
先手の持駒:歩二
【手数=53 ▲9五同歩 まで】
ここから△3五歩▲4六角成△8二角▲3五歩△4六角▲同 飛△6六歩▲2六飛△7五歩▲同 銀△7一飛▲6六銀と進んだ。
先の2局は△7五歩だが、渡辺はここで△3五歩と指した。
▲4六角成は本譜のように△8二角で消されてしまうので気付きにくいが▲3五歩が好手だと思う。3〜4筋の歩が厚く▲2六飛と回ったところでは木村好みの将棋になったと思う。
△6六歩と△7五歩はあまり良い手ではなさそうな感じ。△6六歩は先に6六角と先着されるのを嫌ったと思われるが、何が狙いなのか分からない手渡しだ。
また△7五歩は▲同歩なら利かしだが本譜のように▲同銀と取られると困りそうだ。▲6六銀と手順に6六の歩を払ったところでは、はっきり先手良しだろう。
しかし、この将棋が怪しくなるのだから渡辺竜王の腕力は相当なものだ。
図は当たりになっている2六の飛車を▲7六に回ったところ。先手狙いの一手だ。
後手:渡辺明竜王
後手の持駒:角 銀 歩四
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一
| ・ ・ ・ 馬 ・ ・v金v玉 ・|二
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v歩 ・|三
| ・ ・ ・ ・v歩v金 ・ ・v歩|四
| 歩v桂 ・ ・ ・ ・v銀 ・ ・|五
| ・ ・ 飛 ・ ・ ・ ・ ・ 歩|六
|v歩 歩 歩 銀 歩 ・ 桂 ・ ・|七
| ・ 玉 金 ・ 金 ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:木村一基七段
先手の持駒:銀 歩五
【手数=89 ▲7六飛 まで】
ここから
△7五歩▲同 飛△6四角▲7二飛成△8二飛▲同 龍△同 角と進んだ。
図で一見先手の飛車成りが確定したようだが△7五歩▲同飛△6四角としてから△8二飛とぶつける手があった。後手は遊んでいる飛車を持ち駒にすることに成功し、形勢はにわかに分からなくなってきた。
図は終盤戦。8四にいた龍を△8三歩▲同歩としてから△9五香と走ったところ。長期戦の模様を呈しており、混沌とした局面だ。
後手:渡辺明竜王
後手の持駒:銀二 桂二 香 歩
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩v玉 ・|二
| ・ 龍 ・ ・ ・ ・v桂 ・ ・|三
| ・ ・ ・ ・v歩v金 ・v歩v歩|四
|v香 ・ 馬 ・ ・ ・v馬 ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩|六
|v歩 歩 歩 銀 歩 ・ ・ ・ ・|七
| ・ 玉 金 ・ 金 ・ 歩 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・v龍|九
+---------------------------+
先手:木村一基七段
先手の持駒:金 銀 歩七
【手数=120 △9五香 まで】
▲9六歩△同 香▲9二龍△9八銀▲7九金と進んで完全に逆転だ。
竜王のブログで「▲9七香△同香成▲同馬もしくは▲同玉とされたら指す手がわかりませんでした。感想戦で出た▲7六歩も有力そうです」と書いている(と思ったのだが今見たら消えてました)。
▲7九金で木村の予定は▲7六歩だったが△6五桂▲同馬△8五桂の好手順があって秒読みの中での予定変更のようだ。
既に軌道修正不能で156手で渡辺竜王が勝利。防衛に向けて幸先の良いスタートとなった。
それにしてもこの将棋がひっくり返るとは思わなかった。渡辺竜王の底力を再認識した。木村七段にとっては残念な将棋になってしまったが、これでタイトル戦の雰囲気も経験済みということで肩の力が取れたのならば2局目以降も好局が期待できるだろう。
次局こそは中座飛車かな?
#一言日記:千葉ロッテ優勝。千葉県在住なのでパは千葉ロッテを応援しているので素直に嬉しかった。
[2005/10/29 01:50]
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第2局
第2局は横歩取り。と来れば中座飛車確定かと思いきや後手木村七段は△8四飛と引いた。
この辺りは先手渡辺竜王が巧みに誘導したということらしい。
後手:木村一基七段
後手の持駒:歩二
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金v玉 ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・v歩v歩v歩v歩v角 ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・v飛 歩 ・ ・ ・ 飛 ・ ・|六
| 歩 ・ ・ 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ 角 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:渡辺明竜王
先手の持駒:歩三
【手数=18 △2二銀 まで】
ここから▲5八玉△8四飛▲3八金△4一玉▲8七歩と進んだ。
▲5八玉が飛車の位置を8四に限定させた意味があるという。渡辺の作戦だったのだろう。
図は▲5五銀と歩を取ったところ。封じ手だ。
後手:木村一基七段
後手の持駒:歩三
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・v金v玉 ・v桂v香|一
| ・ ・ ・v銀 ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・v桂v歩v角v歩 ・ ・ ・|三
| ・v飛v歩 ・ ・ ・ ・ ・v歩|四
| ・ ・ ・ ・ 銀 ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ 飛 ・ 歩|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ ・|七
| ・ 角 金 ・ 玉 銀 金 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:渡辺明竜王
先手の持駒:歩三
【手数=43 ▲5五銀 まで】
ここから△7五歩▲3七桂△3五歩▲5六飛△3三桂▲4六銀△7六歩▲2三歩△同 金▲5三飛成と進んだ。
▲4六銀が柔軟な好手。一目▲5四銀が映るが、△5五歩などの切り返しがある。
△7六歩はある意味開き直った手だが、先手は▲5三飛成と鮮やかに決めに行った。△7六歩としたために▲7五角が厳しく残っている。
71手で先手が勝って、渡辺竜王の2連勝スタートとなった。
木村七段の持ち味は柔軟な受けだが、本局はあっさりと土俵を割ってしまった感がある。してみると封じ手の辺りは既に後手が芳しくないということなのかもしれない。
#一言日記:瀬川プロ誕生。ここ数ヶ月時の人だった瀬川氏が編入試験第5局に勝ってプロ入りを決めた。瀬川四段にとってはフリークラスからC2に上がれるか否かが本当の勝負だ。
[2005/11/09 23:30]
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第3局
そろそろ中座飛車登場か、と予想していたところ、▲2六歩△3四歩▲7六歩△3二金▲7八金△4四歩の出だしで、後手渡辺竜王が、中座飛車も角換りも拒否する序盤戦となった。
変則矢倉となったが後手に苦労の多い将棋になったようだ。図は一日目の差掛け図。
先手は腰掛銀から4筋の歩を切っている。先手の模様が良さそうだ。
後手:渡辺明竜王
後手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・v飛 ・ ・v角v金v玉 ・|二
|v香 ・v桂v歩 ・v金v銀v歩v歩|三
|v歩v歩v歩v銀v歩v歩v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| 歩 銀 歩 歩 銀 ・ 歩 ・ ・|六
| ・ 歩 ・ 金 歩 ・ 角 ・ 歩|七
| ・ ・ 金 ・ ・ 飛 ・ ・ ・|八
| 香 桂 玉 ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:木村一基七段
先手の持駒:歩
【手数=49 ▲8六銀 まで】
封じ手は△1二香。
穴熊に潜ろうという実践的な手だが、逆説的にそれ以外では具体的な手がないとも言える。
いよいよ5筋から開戦したのは後手だった。穴熊玉を活かして総攻撃だ。受ける先手は後手の攻めをいなす方針だ。木村八段好みの展開になって来た。
図は▲7三銀としたところ。ちょっと打ちにくいがこれも木村八段らしい手と言える。
後手:渡辺明竜王
後手の持駒:歩
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v玉|一
| ・ ・v飛 ・ ・v角v金v銀v香|二
|v香 ・ 銀v歩 ・v金 ・v歩v歩|三
| ・v歩 ・ ・ ・v歩v歩 ・ ・|四
| 歩v桂v銀 ・ ・ ・ ・ 歩 歩|五
| ・ 銀 ・ 歩 ・ ・ 歩 ・ ・|六
| ・ 歩 ・ 金 歩 ・ 角 ・ 桂|七
| ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ 飛 香|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手:木村一基七段
先手の持駒:歩四
【手数=73 ▲7三銀 まで】
ここから△7一飛△同 歩▲7六歩△8六銀▲同 歩△同 歩▲2四歩△同 歩▲7七銀と進んだ。
▲7六歩に歩頭に出る△8六銀は穴熊なら当然の一手だろう。しかしやや無理気味な感じは否めない。
▲7七銀はこれまた木村八段らしい手だが、ここは普通に▲7九桂で良かったのではないだろうか。
以降、△8七銀とぶち込まれて金銀交換から8筋を押さえてから△4七金(7三に銀がいるため角の利きを7三から外せない)となったところでは、後手の攻めが続きそうな感じがしてきた。
図は▲4三歩としたところ。こうなるといかにも穴熊玉は遠い。ただし先手も持ちこたえることが不可能という訳ではなさそう。木村八段が先手を持っているならなおさらだ。
後手:渡辺明竜王
後手の持駒:角 銀 歩
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v金v桂v玉|一
| ・ ・ 飛 ・ 銀v角 ・ ・v香|二
|v香 ・ ・v歩v金 歩 ・v銀v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・v歩v歩v歩 ・|四
| 歩 ・ ・ ・v歩 ・ ・ ・ 歩|五
| ・v歩 歩 歩 歩 ・ 歩 ・ ・|六
| ・ ・ ・ 金 ・v金 ・ ・ 桂|七
| ・ 玉 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手:木村一基七段
先手の持駒:銀 桂 歩三
【手数=113 ▲4三歩 まで】
ここから△6九角▲7九桂△7八歩▲同 飛△3三角▲6八金△7八角成と進んで先手必勝形になった。
この歩を放置して攻めることが出来るのが穴熊の強みだが△7八歩▲同飛に一旦△3三角と逃げた。
これに呼応するように指された▲6八金がまずかった。飛車を取られては分かり易く後手勝ちになった。▲6八金では開き直って▲2八飛とする手が有望で、これならまだ難しかったらしい。
本局はようやく木村八段らしい将棋になったものの、結果は伴わず、渡辺竜王の3連勝となった。
#一言日記:ハウルの動く城を鑑賞した。まあ面白かったものの、個人的宮崎アニメNo.1の地位はラピュダで変わらず。
[2005/11/20 23:50]
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第4局
第4局も中座飛車ではなく、角換り腰掛銀になった。局後、渡辺竜王のコメントによると「これだけと思われるのは癪なので意地でも中座飛車は指すまい」と決めていたそうだ。
図は一日目の指し掛け図。
後手:木村一基七段
後手の持駒:角
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・v玉v桂v香|一
| ・ ・ ・v飛v金 ・v金 ・ ・|二
| ・ ・ ・ ・v歩v歩v銀v歩 ・|三
|v歩v歩v歩 ・v銀 ・v歩 ・v歩|四
| ・ ・ ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・|五
| 歩 ・ 歩 ・ 銀 歩 歩 歩 歩|六
| ・ 歩 銀 歩 歩 金 桂 ・ ・|七
| ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:渡辺明竜王
先手の持駒:角
【手数=36 △8四歩 まで】
封じ手は▲4五銀。
以下△5五銀▲2五桂△2二銀▲3四銀△7三桂▲3五歩△6四角▲8三角と進んだ。
▲4五銀はあまり予想されてなかった手。裏返すと機敏な手ということなのかもしれない。
△5五銀では△4五同銀▲同桂△4四銀の進行も考えられた。△4五同銀を剛とすると、△5五銀は柔の手。受けの達人は柔を選んだ。
▲3五歩は時間が経つとともに評価の上がった手。じっと突く感じがいいらいい。
▲8三角は狭いところによく打つなと思った。△6三金から木村好みの展開になりそうで、挑戦者に勝機が訪れるかと思ったのだが...。
端から渡辺竜王の猛攻が始まった。端で入手した香で▲4五香としたところ。
後手:木村一基七段
後手の持駒:桂 歩二
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・v玉v桂 ・|一
| ・ ・ ・v飛 ・ ・v金 ・ ・|二
| ・ 角v桂v金 ・v歩 ・v歩v銀|三
|v歩v歩v歩v角v歩v銀 銀 ・ ・|四
| ・ ・ ・v歩 ・ 香 歩 ・v歩|五
| 歩 ・ 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩 ・|六
| ・ 歩 銀 歩 ・ 金 ・ ・ ・|七
| ・ 玉 金 ・ ・ ・ 飛 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:渡辺明竜王
先手の持駒:なし
【手数=57 ▲4五香 まで】
ここから△8五桂▲4四香△同 歩▲5一銀△5二飛▲1五香△2四銀▲1八飛△4一玉▲2五歩と進んだ。
簡単に潰れそうな後手陣だが、なんといっても指しているのは木村七段だ。なんとか受けきることを期待したが、先手のりの雰囲気が漂って来た。
以下渡辺竜王が押し切って101手で勝利。初防衛に成功した。渡辺竜王はここ一年で一段と強くなった感じがする。老獪な指し回しばかりが印象に残る竜王戦になった。
#一言日記:渡辺竜王はこの防衛で九段に昇段。「21歳7カ月での九段昇段は、谷川浩司九段の21歳11カ月(名人1期で九段。資格獲得は21歳2カ月だが、当時の規定で翌年度に昇段)より早く、史上最年少記録」とのことだが、谷川浩司九段はさらに偉大だったということですね。
[2005/12/03 01:00]
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