第20期竜王戦レポート

第1局

2年連続羽生二冠が絡んでいない同一カードとなった。竜王戦と棋聖戦では互いに挑戦者となったが、互いにタイトルを守りきった。
渡辺竜王も佐藤二冠も順位戦では苦戦している。お互いにあまり調子がよくないようだ。

佐藤先手の第1局は矢倉森下システム。

後手:渡辺明竜王
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v玉 ・|二
|v歩 ・ ・v歩v銀v金v銀v歩 ・|三
| ・ ・v歩v角v歩v歩v歩 ・v歩|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 歩 歩 ・ 歩 歩 歩|六
| 歩 歩 銀 金 ・ 歩 桂 ・ ・|七
| ・ 玉 金 角 ・ 銀 飛 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖棋王
先手の持駒:なし
【手数=38 △1四歩 まで】

ここから▲5七銀△7三角▲9八香△2四銀▲4六歩△3三桂▲4八銀△9四歩▲4七銀と進んだ。
▲9八香は穴熊を目指したものだが、片足を上げたまま▲4八銀から銀の位置を組み変えた。
ちぐはぐだ。結局穴熊に入らない将棋となったが、そうだとすると▲9八香は明らかに一手の意味がないということになってしまう。

図は▲1九香としたところ。間合いを計る意味がある。手を渡された後手が攻勢に出るなら指したい手がある。

後手:渡辺明竜王
後手の持駒:桂 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v玉 ・|二
|v桂 ・v角v歩 ・v金 ・v歩 ・|三
|v桂 ・v歩 ・v歩v歩v歩v銀v歩|四
|v歩v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 歩 歩 歩 銀 ・ 歩|六
| 歩 歩 銀 金 ・ ・ ・ ・ ・|七
| 香 玉 金 角 ・ ・ ・ ・ 香|八
| ・ 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖棋王
先手の持駒:銀 歩二 
【手数=72 △9三桂 まで】

ここから△9三桂▲9六歩△8六歩▲同歩△9六歩▲9五歩△同角▲9六香と進んだ。
△9三桂は渡辺明ブログによると、「△9三桂は悪手になる可能性が高い手なので指したくなかったのですが、他の手はもっと悪手なので、消去法で跳ねることに」ということらしい。手を渡されたら善くも悪くもこの一手というやつだ。
▲9六歩が佐藤らしい手。おそらくお互いに▲9六歩は見えていて、指し難いと感じていたと思うが、先手は△9三桂を咎めるには▲9六歩の一手だ。

これで後手の攻め、先手の受けという攻防になったが、結末は先手がポッキリ折れてしまった感じだ。
図は△8七歩としたところ。

後手:渡辺明竜王
後手の持駒:角 金 歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v金v玉 ・|二
|v桂 ・ ・v歩 ・v金 ・v歩 ・|三
| 香v飛v歩 ・v歩v歩v歩v銀v歩|四
| 銀 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ 金 歩 歩 歩 歩 銀 ・ 歩|六
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|七
| ・ 玉 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|八
| ・ 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖棋王
先手の持駒:角 銀 桂二 歩三 

【手数=108 △8七歩 まで】 ここで▲6八玉としたが、敗着となった。以下△8六飛▲同銀△5八角で寄りである。
▲6八玉は佐藤らしくない弱い手で、▲同玉ならまだ難しかったようだ。

渡辺竜王先勝。
互いに調子が良くないと言われているが、佐藤の指し方にらしさを感じることが出来なかったのが気になる。

#一言日記:CSシリーズは中日がノンストップ(vs阪神○○、vs巨人○○○)と駆け上がった。ペナント覇者がすんなり日本シリーズに出られない、この制度は興行優先の次善手だと思う。
そんな気持ちが監督の胴上げをしなかったところに現れていたと思う。
[2007/10/21 23:50]
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第2局

第2局は後手番が佐藤二冠ということで作戦が注目された。自ら角交換して向飛車、更に居穴熊に組む、というのが本局の佐藤の作戦。
対する渡辺竜王は銀冠に。

封じ手の下図は作戦の帰路。場合によっては手詰まりが懸念される展開が予想されるが。

後手:佐藤康光棋聖棋王
後手の持駒:角 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v玉v桂v金 ・ ・ ・ ・ ・v香|一
|v香v銀 ・v金 ・ ・ ・v飛 ・|二
| ・v歩 ・v歩v銀v歩v桂 ・ ・|三
|v歩 ・v歩 ・v歩 ・v歩v歩v歩|四
| ・ 歩 ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・|五
| 歩 ・ 歩 ・ 歩 銀 歩 歩 ・|六
| ・ 銀 桂 ・ ・ 歩 桂 ・ 歩|七
| ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 ・ ・ ・ ・ 金 ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:渡辺明竜王
先手の持駒:角 
【手数=40 △1四歩 まで】

封じ手は▲5八金。以下△3九角▲2九飛△6六角成▲5七銀△4四馬▲6七金右と進んだ。
▲5八金は本譜のように馬を作られる。しかし▲5七銀▲6七金右と盛り上がってみるとなるほどと頷ける大局観だ。
この動きで手詰まりの心配は薄れた。形勢は不明。

図は▲5一角成に△3五歩と動いたところ。ここまでは△8四歩の頭突き攻めを狙いに後手が立ち回っている。これを防ぐ動きが▲5一角成だが、今度は△3五歩という訳。

後手:佐藤康光棋聖棋王
後手の持駒:桂 歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v玉v桂v金 ・ 馬 ・ ・ ・v香|一
|v香v銀v金 ・ ・ ・ ・ ・v飛|二
| ・v歩v銀v馬 ・v歩 ・ ・ ・|三
|v歩 ・v歩 ・v歩 ・ ・v歩v歩|四
| ・ 歩 ・ 歩 ・ 歩v歩 ・ ・|五
| 歩 桂 歩 銀 歩 ・ 歩 歩 ・|六
| ・ 銀 桂 金 ・ ・ ・ ・ 歩|七
| ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九
+---------------------------+
先手:渡辺明竜王
先手の持駒:なし
【手数=66 △3五歩 まで】

ここから▲同歩△3二飛▲3九飛△5三馬▲3四歩△3一飛▲3三馬△8四歩▲9四桂△同香と進んだ。
▲同歩が振り飛車の捌きを呼び込んだ。△3一飛まで進んでみると▲3三馬(または2四馬)とするしかない。
馬を8筋そらせてかねてからの狙い筋である△8四歩が実現した。
△8四歩で明らかに後手優勢。やむを得ない▲9四桂に△同香は佐藤らしい強い手だが、ここでは疑問手だと思う。△8三銀で何の不満があるのか。これで逆に先手優勢となった。

先手優勢のまま終盤へ。最後の最後にドラマがあった。
図は▲6九金と金を打って馬を叱りつけたところ。

後手:佐藤康光棋聖棋王
後手の持駒:銀 桂二 歩六 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・v桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一
|v玉 ・v金 ・ 馬 ・ ・ 龍 ・|二
| ・v桂v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・|三
| ・v歩v歩 ・v歩 ・ ・v歩v歩|四
|v金 ・ ・ 歩 ・ 歩 ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 銀 歩 ・ ・ 歩 ・|六
| ・ 歩 ・ 金 ・ ・ ・ ・ 歩|七
| ・ ・ 玉 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 ・ ・ 金v馬 ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:渡辺明竜王
先手の持駒:銀二 香 
【手数=129 ▲6九金 まで】

ここから△8六桂▲同歩△8九銀▲7九玉△8七桂と進んでまたしても逆転。

熱戦を佐藤が制して1勝1敗となった。
本局も互いにミスが目立つ将棋だった。特に安全勝ちがあった渡辺としては悔しい敗戦になった。

#一言日記:祝!中日日本一!!山井の交代劇は賛否両論あるが、最後は岩瀬という勝利の方程式通りの采配は当然とも言える。

[2007/11/05 00:05]
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第3局

一時は先手必勝戦法と言われていたが、最近はめっきり指されなくなった戦法がある。ひねり飛車だ。
そのひねり飛車を先手佐藤棋聖棋王は採用した。佐藤が採用するのだから、何か新工夫があるものと思われた。
しかし、これといった工夫は見いだされないまま下図となる。

後手:渡辺明竜王
後手の持駒:歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・v銀v金v玉 ・|二
| ・ ・ ・v金v歩v銀v角v歩 ・|三
|v歩 ・v歩v歩 ・v歩v歩 ・v歩|四
| ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| 歩 ・ 飛 歩 銀 歩 歩 ・ 歩|六
| 角 ・ 桂 ・ 歩 ・ ・ ・ ・|七
| ・ ・ ・ ・ 金 ・ 銀 ・ ・|八
| 香 ・ ・ ・ ・ 金 玉 桂 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖棋王
先手の持駒:歩二 
【手数=55 ▲7六飛 まで】

ここから△9三桂▲8六飛△5四金▲3七桂△6五歩▲1五歩と進んだ。
逆に後手の工夫の一手が出た。△9三桂7筋で戦いになった時に当たりを避ける意味がある。現代的な好手と思う。
△5四金で後手陣は駒組が飽和した。そこで△6五歩と開戦。ここで▲1五歩が佐藤らしい手だが、あたためてい手という訳ではなさそう。

後手陣は無駄駒なし、先手陣の美濃は薄く、ひねり飛車が廃れてしまった理由が分かる展開になった。▲1五歩は自陣の弱点からの手作りなので、見かけ以上の戦果を得ないと目測を誤る。
しかし意外にも後手渡辺竜王は指し易さを感じていなかったとのこと。渡辺明ブログで渡辺自身の見解は興味深い。

図は△6四角に▲7六飛としたところ。端攻めで得た香を2八に打った手が抜群で、ここでは先手が良さそうに見える。しかしこの形勢判断は次の一手で覆された。

後手:渡辺明竜王
後手の持駒:桂 歩四 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|一
| ・v飛 ・ ・ ・v銀v金v玉 ・|二
|v桂 ・ ・ ・v歩v銀 ・v歩v桂|三
|v歩 歩v歩v角v金v歩v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・|五
| 歩 ・ 飛 歩 ・ ・ 歩 ・v歩|六
| 角 ・ 桂 ・ 歩 銀 ・ ・ ・|七
| ・ ・ ・ ・ 金 ・ 銀 香 ・|八
| 香 ・ ・ ・ ・ 金 玉 ・ 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖棋王
先手の持駒:歩 
【手数=75 ▲7六飛 まで】

ここから△2八角成▲同玉△8四飛▲6五桂△2五桂と進んだ。
△2八角成が強手。駒損にはなるが、味の良い香車との交換で、先手玉を危険地帯に移動させ、更に端攻めを逆用した形になっている。
後手優勢。

しかしそれほど簡単な将棋ではなく、終盤までぎりぎりの勝負だったようだ。
図は▲4九歩としたところ。次の一手が決め手だった。

後手:渡辺明竜王 後手の持駒:角 金二 桂 歩四 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|一
| ・ ・ ・ ・ ・v銀v金v玉 ・|二
| ・ ・ ・ ・v歩v銀 ・v歩v歩|三
|v歩 ・v歩 圭 ・v歩v歩 ・ ・|四
| ・v桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|五
| 歩 ・ ・ ・ ・ ・ 歩 歩 ・|六
| ・ ・ ・ 歩 歩 銀v桂 ・ 歩|七
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ 銀 玉 ・|八
| 香 ・ ・ ・v龍 歩 ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖棋王
先手の持駒:飛 角 金 香 
【手数=125 ▲4九歩 まで】

次の一手は△1四歩。これを▲同香は先手玉が詰むので取れない。
△4九桂成との比較で△1四歩を選択したとのことだが、△4九桂成には佐藤は鬼手を用意していたらしい。詳しくはブログを参照。

ひねり飛車は勝ちにくい戦法という印象は本局で払拭することはできなかった。

#一言日記:大学将棋部の先輩の告別式に参列してきた。11月17日将棋の日。ご冥福をお祈り致します。
[2007/11/18 00:20]
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第4局

第4局は後手佐藤棋聖棋王が角交換からダイレクトに向飛車にする作戦を採用した。変幻自在、佐藤将棋の引き出しの一つだが、同様な手法はタイトル戦でも披露している。第32期棋王戦第4局(森内○vs●佐藤)等だ。

向飛車に転じた瞬間に▲6五角が成立するかというのがこの戦法の骨格の一つだが、▲6五角は先手の権利で無論打たずに駒組を進めることも考えられる。
渡辺竜王も▲6五角をスルーした。となると現代将棋の旗手が目指すのは穴熊ということは当然の帰結と言える。
図は△6二金直としたところ。銀冠に組む瞬間、離れ駒ができることを嫌った手だが、遠大な構想は見え隠れしている。

後手:佐藤康光棋聖棋王
後手の持駒:角 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一
| ・v玉v銀v金 ・ ・ ・v飛 ・|二
| ・ ・v桂v金 ・v歩v桂v歩 ・|三
|v歩v歩v歩v歩 ・v銀v歩 ・v歩|四
| ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・ 歩 ・|五
| 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩|六
| ・ 歩 ・ ・ 歩 銀 ・ ・ ・|七
| 香 銀 ・ 金 ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 玉 桂 金 ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:渡辺明竜王
先手の持駒:角 
【手数=44 △6二金上 まで】

ここから▲5八銀△5四角▲6七角△2一飛▲7七金△8三銀▲3四角△7二金▲8六歩△5三金▲7八角△3六角▲3四歩と進んだ。
△5四角▲6七角と角を打ち合った。先手の狙いは▲3四角と歩をかすめ取って3筋の歩を延ばすこと。後手の狙いは先ほどの先手の筋を緩和するのが一点。もう一点は△9二香〜9一飛と端攻め一点集中攻撃のための布石としての意味だ。
後手がタイミングを見極めてこの筋を決行できれば、後手にとっても面白い展開が予想される。というかこの筋を決行できないようであれば先手十分の将棋になってしまう。
本譜は後手が踏み切れずにこの筋は幻となった。逆に先手の狙い筋は容易に実現した。▲3四歩で桂を助けることが困難で先手良しは明白だろう。

居飛穴の特徴を遺憾なく発揮して101手で先手の勝ち。竜王戦初の4連覇が見えてきた。

#一言日記:今日は家内の**回目の誕生日。
[2007/11/25 01:20]
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第5局

相穴熊である。ただの相穴熊ではない。第5局は矢倉戦。渡辺竜王の封じ手は△1二香。これで先手後手共に穴熊に囲うという珍しい将棋になった。

図は△1一玉と定位置に囲ったところ。個人的には後手の穴熊への切り換えは奇異に感じる。というか必要性を感じないのだが、渡辺ならではの指し手とも言える。

後手:渡辺明竜王
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v玉|一
|v飛 ・ ・ ・ ・ ・v金 ・v香|二
|v桂 ・v角v歩v銀v金 ・v歩v銀|三
|v香v歩v歩 ・v歩v歩v歩 ・v歩|四
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| ・ ・ 歩 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|六
| 歩 歩 ・ 金 銀 ・ 桂 ・ ・|七
| 香 銀 金 ・ ・ ・ ・ ・ 飛|八
| 玉 桂 ・ ・ 角 ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖棋王
先手の持駒:なし
【手数=56 △1一玉 まで】

ここから▲1五歩△同歩▲同飛△1四歩▲1八飛△2二金▲2八飛△4二銀▲2四歩△同銀▲9六歩と進んだ。
先手はどこかで一歩交換できれば、本譜ように9筋から逆襲の筋がある。穴熊に切り換えたおかげで1筋の歩が切り易くなった気がするのが穴熊不要の理由なのだが。
△2二銀型にしないで△2二金型にしたのは渡辺の工夫。こちらの方がバランスがよさそうだ。
そして待望の▲9六歩。玉頭なので怖い手だが、佐藤棋聖棋王ならば当然こう指すと思った。第1局に続いての地獄突きとなった。

現代将棋は穴熊のように自陣が堅く攻めていれば切れなければ勝ち、という風潮が顕著だ。
渡辺も駒損になる本局も「堅い、攻めてる、切れない」という局面に誘導しやすくなるので、敢えて選択したのかも知れない。
後手の攻めを、先手が凌げるかという将棋になってきた。

図は△5九角と打ったところ。厳しい両取りだ。「堅い、攻めてる、切れない」の3拍子が揃ったか。

後手:渡辺明竜王
後手の持駒:銀 桂 香 歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v玉|一
| ・ ・ ・ ・ ・v銀 ・v金v香|二
| ・ ・ ・v歩 ・v金 ・v歩 ・|三
| ・v歩v歩 ・v歩v歩v歩v銀v歩|四
| 龍 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 歩 歩 歩 歩 ・ ・|六
| ・ 歩 ・ 金 銀 ・ 桂 ・ ・|七
| 玉 ・ 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| ・ ・ ・ ・v角 ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖棋王
先手の持駒:角 桂 香 歩二 
【手数=94 △5九角 まで】

ここから▲8六歩△8五銀▲8四龍△9七歩▲8七玉△8六角成▲8八玉△9八歩成▲7九玉△5九馬▲4八銀と進んだ。
直ぐに3七の桂をとらずに玉側でもう少し仕事をしたいところ。で△8五銀。良さそうな手だ。▲8四龍△9七歩も調子の良さそうな手だが、▲8七玉と顔面で受けたのが、強い受け。
これで先手は簡単には寄らなくなった。

依然手に汗握る攻防戦が続いた。図は▲8一飛としたところ。

後手:渡辺明竜王
後手の持駒:飛 銀 歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ 飛 ・ ・ ・ ・ ・v桂v玉|一
| ・ ・ ・ ・ ・v銀 ・v金v香|二
| ・ ・ ・v歩 ・v金 ・v歩 ・|三
| ・ ・v歩 ・v歩v歩v歩v銀 ・|四
| ・ ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・v歩|五
| ・v馬 歩 玉 歩 歩 歩 ・ ・|六
| ・ ・ ・ 金 ・v桂 ・ ・ ・|七
|vと ・ 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖棋王
先手の持駒:角 銀 桂二 香二 歩四 
【手数=129 ▲8一飛 まで】

ここから△5八飛▲8六飛成△7八飛成▲9六角△8七歩▲7四角と進んだ。
△5八飛は元気が良すぎた。▲9六角が好手で、龍取りと同時に7四の歩取り。▲7四角と押さえの歩を取られては、先手の入玉を阻止するのが難しくなった。

この後も熱戦が続いたが、177手で遂に力尽きた。後手玉は穴熊の姿焼きのまま投了。

本局は今期竜王戦の中で一番の熱戦だったと思う。両雄とも不調と言われるが、踏み込みも良いので次局も熱戦が期待できそうだ。

#一言日記:真部九段の訃報を知った。絶局は新鋭豊島四段との順位戦6回戦。得意の後手ゴキ中。体調不良を推しての対局だったのだろう。形勢不明な局面で投了している。
豊島四段は順位戦7回戦で今度は真部九段側を持って挑んだ(佐藤天●vs○豊島)。大内九段もその将棋を踏襲した。なんとこちらは投了図まで同一進行だった(村山滋○vs●大内)。 ご冥福をお祈り致します。
[2007/12/03 00:30]
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第6局

2手目△3二金は前期竜王戦で佐藤二冠が採用して話題になった。挑発ではなく論理的に帰結した手とされている。
将棋世界誌1月号の好連載「イメージと読みの将棋観」で「▲7六歩△3二金▲7八金△4一玉」がテーマに挙っており、渡辺竜王は「2手目△3二金には▲5六歩から中飛車にして、ちゃんとやれば先手が良くなる」としている。
第6局は序盤から面白い将棋となった。本局は佐藤が2手目△3二金を投入。これを将棋世界誌で宣言した通り▲5六歩としたのが下図。しかし、この後思いもかけない展開になった。

後手:佐藤康光棋聖棋王
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金v玉 ・v銀v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v角 ・|二
|v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ 歩 ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 ・ 歩 歩 歩 歩|七
| ・ 角 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 銀 金 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:渡辺明竜王
先手の持駒:なし
【手数=3 ▲5六歩 まで】

ここから△3四歩▲5五歩△4二銀▲5八飛▲3八銀△6二玉▲4六歩△7二玉▲9六歩△5一銀▲4七銀△6二銀左▲9五歩と進んだ。
△4二銀は△5二飛を可能にした手で、なんと相中飛車になった。角交換から△4五歩の狙いがあるので次に△5四歩の逆襲があるので▲3八銀とこれを受けた。
穴熊が得意の渡辺なのでこれで右に囲っての穴熊がなくなった。後手の斬新な構想は△4二銀の扱いにも現れている。△5一銀〜△6二銀左と玉側に引き付けた。

後手の課題は△3二金の使い方。先手はまだ玉の囲う方向に選択肢がある。奇異に映る後手の布陣を咎める構想もありそうで、駒組が悩ましい。
右の穴熊はなくなったが左に穴熊に囲うのかなと思っていたが、渡辺の構想は中央を厚くするより積極的な手だった。
図は▲4九玉とし相振り飛車が確定したところ。

後手:佐藤康光棋聖棋王
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v玉v金v銀v飛 ・v金v角 ・|二
|v歩v歩 ・v銀v歩v歩 ・v歩v歩|三
| ・ ・v歩v歩 ・ ・v歩 ・ ・|四
| 歩 ・ ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ 銀 歩 ・ ・ ・|六
| ・ 歩 角 歩 ・ 銀 歩 歩 歩|七
| ・ ・ ・ ・ 飛 ・ 金 ・ ・|八
| 香 桂 ・ 金 ・ 玉 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:渡辺明竜王
先手の持駒:なし
【手数=29 ▲4九玉 まで】

ここから△3三金▲4五銀△1四歩▲6六角△4四金▲同銀△同歩▲7七桂△4二飛▲8五桂△6五歩▲4八角△8四銀▲8六歩△1三角▲5六金△3三桂と進んだ。
△3三金が佐藤らしい手。3二の金を捌く感覚だ。▲4五銀はこれを牽制した手と思われるが、敏感に反応しすぎたか。△4四金とぶつけ易くなって、後手は懸案の△3二金を捌くことに成功した。
ただし金銀交換は若干金の方が価値が高い。その金銀を△8四銀▲5六金と打ち合ったところでは▲5六金の方が手厚く、一概にどちらが得をしたかは分からない。
端攻めの権利を持っている先手だが、玉の位置が不満だ。後手は一応主張を通した形になっているので後手番としては満足といったところか。

下図は中盤から終盤への入り口辺り。先手は端攻めで一定の効果を上げているものの、後手の反撃も厳しい。ここでは後手優勢と言われていた。

後手:佐藤康光棋聖棋王
後手の持駒:金 歩五 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一
| ・v玉v金v銀 ・v飛 ・ ・ ・|二
|v香v歩v桂 ・ ・ ・ ・v歩 ・|三
|v歩v銀 歩 ・ ・ ・v歩 ・v歩|四
| ・ 桂 ・v歩 ・v桂 ・ ・ ・|五
| ・ 歩 ・ ・ 銀v角 ・ ・ ・|六
| ・ ・ ・ 歩 ・ ・ 歩 歩 歩|七
| ・ 飛 ・ ・ ・ 角 金 ・ ・|八
| 香 ・ ・ 金 ・ ・ 玉 桂 香|九
+---------------------------+
先手:渡辺明竜王
先手の持駒:銀 歩 
【手数=71 ▲7四歩 まで】

ここから△8五銀▲同歩▲4七歩△4八成桂▲同金△3六桂▲同歩△2八角打▲4九玉△5五角と進んだ。
このタイミングで△8五銀と桂を食いちぎった。角を取ってから、その桂で△3六桂。いよいよ決めに出たかと思ったが、△2八角打〜△5五角は変調か。角がだぶっており本筋とは思えない。
図は△8七銀と打ったところ。ここまでの手順で△3九金も打っており寄せてしまえば、本筋云々は問題ない。先手玉は一応挟撃になっており、後手玉は端からの攻めは左辺に逃げればかなり延命できる。よってまだ難しいと思われていた。

後手:佐藤康光棋聖棋王
後手の持駒:歩五 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一
| ・v玉v金v銀v飛 ・ ・ ・ ・|二
|v香v歩v桂 ・ ・ ・ ・v歩 ・|三
|v歩 ・ 歩 ・ ・ ・v歩 ・v歩|四
| ・ 歩 ・v歩v馬 ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・ ・|六
| ・v銀 ・ 歩 ・ 歩 ・ 歩 歩|七
| 飛 ・ ・ ・ 銀 金 ・ ・ ・|八
| 香 ・ ・ 金 玉 ・v金 桂 香|九
+---------------------------+
先手:渡辺明竜王
先手の持駒:角 銀 桂二 
【手数=90 △8七銀 まで】

ここから▲9七飛△8八銀不成▲9八飛△9九銀成▲9六飛△5四飛▲6一角△7七馬▲6八銀△4四馬▲7五桂△7一玉▲7二角成△同玉▲8四歩△同歩▲8三金と進んだ。

▲9七飛〜▲9六飛は不思議な手順だ。0手で9一の銀をゲットした勘定になる。寄せに失敗した感のある後手は相手の攻め駒▲6一角を攻める方針にチェンジした。△7七馬▲6八銀と一枚使わせて△4四馬。この間隙に▲7五桂が急所の一手だった。△7一玉で逃げながら角を捕獲したが、切られて▲8三金と打ち込まれては後手玉ピンチである。

先手玉は早い寄せがないので、先手の攻めを切らせることが後手にとっては必要だ。左辺に逃げ落ちればその可能性もあると思っていたが、9一の成銀、9三の香等、後手の駒が入手しやすい位置に置かれていることが後手にとっては不幸だった。巧みに2一の桂も参加させて、最後は1筋で捕獲されてしまった。

今年最後の番勝負に相応しい熱戦だったが、最後は渡辺勝利で終わった。
渡辺は史上初の竜王戦4連覇。虎の子の竜王戦で金字塔を打ち立てた。
両雄とも順位戦で苦戦しているが、竜王戦を見ている限りは不調とは思えない。降級することだけは避けるよう頑張って欲しい。

#一言日記:竜王戦が終わってしまったので、おそらく今年最後の更新です。
[2007/12/15 01:30]
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