第73期棋聖戦レポート

第1局

郷田棋聖と佐藤王将。棋界を代表する棋理追求型の棋士だ。名人戦の丸山−森内は互いに負けない将棋であるのに対し、両雄は勝ちに行く将棋とも言える。
注目の第1局は矢倉模様の出だしから先手の郷田棋聖が▲6四歩として角を7九→6八→5九→2六と4手角で転回し右銀は5六に腰掛けるという趣向に出た(飛車先不突きでのこの形は10年以上前に週刊将棋で見た記憶がある)。後手の佐藤王将も先手に呼応するように矢倉ではなく雁木を選択し、下図を迎えた。

後手:佐藤康光王将
後手の持駒:歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・v玉 ・v香|一
| ・v飛 ・ ・v金 ・v金 ・ ・|二
|v歩 ・v桂 ・v銀v銀v桂v歩v歩|三
| ・v角v歩v歩v歩 ・v歩 ・ ・|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| ・ ・ 歩 歩 銀 ・ 歩 角 ・|六
| 歩 歩 銀 ・ 歩 ・ ・ ・ 歩|七
| ・ ・ 金 ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 玉 ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:郷田真隆棋聖
先手の持駒:歩 
【手数=43 ▲7九玉 まで】

ここから△6五歩▲同 歩△6二飛▲6七金右△6五桂▲6六銀△同 角▲同 金△5七桂成▲6五歩と進んだ。
角をたぎって5七に桂馬を成って後手好調に見えるが▲6五歩で二の矢がなさそうにも思える。紙一重の攻防戦だ。

さらに少し進んで下図。

後手:佐藤康光王将
後手の持駒:銀 歩三 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・v飛 ・ ・v玉 ・v香|一
| ・ ・ ・ ・v金 ・v金 ・ ・|二
|v歩 ・ ・ ・ ・v銀 ・v歩v歩|三
| ・ ・v歩 ・v歩v銀 歩 ・ ・|四
| ・v歩 ・ 歩 ・v桂 ・ 歩 ・|五
| ・ ・ 歩 金 銀 歩 ・ 角 ・|六
| 歩 歩 ・ ・v圭 ・ ・ ・ 歩|七
| ・ ・ 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ 玉 ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:郷田真隆棋聖
先手の持駒:角 歩 
【手数=63 ▲6九同玉 まで】

図から△5五銀▲同 銀△6七歩▲4五歩△6八銀▲同 金△同歩成▲同 飛△同成桂▲同 玉△2八飛▲4八角打と進んだ。
△5五銀!!▲同 銀としてからじっと△6七歩。本譜のように飛車を取るのが狙いだが銀を捨てるだけにちょっと思い付かない構想だった。先手も△2八飛の王手角取りには▲4八角打と凌ぐ。

第1局から期待に違わない激しい斬り合いとなったが結果は115手で郷田棋聖の勝ち。防衛に向けて好スタートをきった。
#一言日記:フランスに続きアルゼンチンも1次リーグで敗退。
[2002/06/13 1:40]
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第2局

角換りになった本局、図は中盤戦。後手の棒銀模様に対して先手は右玉だったのだが、先手は▲5六銀として、さらに4八の玉を5八に移したため中住まいのような形になっている。後手も7三に出た銀を6二に引いてよく分からない手将棋になった。

後手:郷田真隆棋聖
後手の持駒:角 歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・v銀 ・v金v玉 ・ ・|二
| ・ ・ ・v歩 ・v歩v金v歩 ・|三
|v歩 ・v歩 ・v銀 ・v歩 ・v歩|四
| ・v歩 ・v桂v歩 歩 ・ 歩 ・|五
| 歩 ・ 歩 銀 ・ ・ 歩 ・ 歩|六
| ・ 歩 ・ 銀 歩 ・ 桂 ・ ・|七
| ・ ・ 金 ・ 玉 金 ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光王将
先手の持駒:角 
【手数=54 △4二金 まで】

ここから▲9五歩△同 歩▲6五銀△同 銀▲7七桂△5四銀▲4六桂と進んだ。
▲6五銀と桂馬を食いちぎって▲4六桂はかねてからの狙い筋だが、端にも手をつけたのは▲7三角〜▲9五角成を可能にするためのもの。先手がうまくやったようにも思えるが後手も8筋から反撃してどちらが良いのか分からなくなってきた。

図は終盤戦。飛車成りを甘受した先手の次の一手は読み筋なのだろうが、疑問手かも...。

後手:郷田真隆棋聖
後手の持駒:角 金 香 歩六 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・v金v玉 ・ ・|二
| ・ ・ ・v歩 ・ ・ ・v歩 ・|三
| ・ ・ ・ ・v銀v金v歩 ・v歩|四
| ・ ・ 馬 ・v歩v歩 ・ 歩 ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・v桂 歩 ・ 歩|六
| ・ ・ 桂 ・ 歩 ・ 桂 ・ ・|七
| ・v龍 銀 玉 ・ 金 ・ 香 ・|八
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光王将
先手の持駒:銀二 歩 
【手数=88 △8八飛成 まで】

図から▲8七銀打△8六歩▲同 馬△4七角と進んだ。
▲8七銀打は龍を召し捕ってゲームセットを狙った手だちょと虫が良すぎたようだ。金の頭に放り込んだ△4七角が好手で先手陣は崩壊した。
さらにもう少し前に打った▲2八香も本譜の展開では無駄手になっており、ここ数手の攻防手の組み合わせが問題だったと思う。

96手で郷田棋聖連勝。佐藤王将は苦しくなった。

#一言日記:ワールドカップ日本がベスト16まで進んだのは善戦だった。共催国の韓国はドイツに0−1で負けてベスト4。こちらも快進撃だった。対戦相手も凄い。審判の誤審が多かったという意見も多いがあまり声が大きくなると商業主義が見えかくれして興醒めしてしまう。VTRで見ると明らかな誤審だけど、少なくとも故意にやっていることはないでしょう。
[2002/06/25 23:55]
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第3局

本局は変則的な出だしの序盤になった。先手は腰掛け銀+三手角で銀矢倉に、後手は3三角、4三金から玉を4二→3二→2二と移動、更に1二香から穴熊へ、という展開。
図は穴熊の端をに味をつけて▲2五歩と継ぎ歩をしたところ。やや細い攻めという感じは否めない。

後手:佐藤康光王将
後手の持駒:歩六 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v玉|一
| ・ ・ ・v角 ・ ・v金v銀 ・|二
| ・ ・ ・v歩 ・v金 ・ ・v香|三
|v歩 ・ ・ ・ 歩v銀 ・v歩v歩|四
| ・ ・ ・ ・ ・v歩v歩 歩 ・|五
| ・ 銀v飛 歩 銀 ・ 歩 角 ・|六
| 歩 歩 ・ ・ ・ ・ 桂 ・ ・|七
| ・ 玉 金 ・ 金 ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 飛 ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:郷田真隆棋聖
先手の持駒:なし
【手数=73 ▲2五歩打 まで】

図から△8五歩▲6七銀△7四飛▲5三歩成△同 角▲8五銀△5四飛▲1五歩△同 歩▲2四歩△7三桂と進んだ。
△8五歩が気付き難い好手で、本譜の順で先手の駒損が確定して後手優勢になったようだ。

146手で佐藤王将が勝って、土俵際で踏ん張った。

#一言日記:サッカー熱も一段落。さてプロ野球はと目を向けると春快進撃した阪神は貯金2つまで交代、気がつけば巨人が首位で面白くない。中日に入団した新人王候補(?)のリナレスに注目!
[2002/07/05 23:25]

第4局

とかく端は難しい。角換りの本局、先手は早めに▲1六歩と端を突いているが、これは現時点では直接後手から咎め難く、損になり難い。故に好手と評価されている類いの手ということらしい。実際本局も▲1五歩と突き越す展開になっている。
本局はもう一方の端でも理解を超越した手が出た。図は棒銀の後手が△9五歩と端から仕掛けたところ。

後手:郷田真隆棋聖
後手の持駒:角 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・v金v玉v金 ・ ・|二
| ・ ・ ・ ・v歩v歩v銀v歩v歩|三
| ・v銀v歩v歩 ・ ・v歩 ・ ・|四
|v歩v歩 ・ ・ ・ ・ ・ 歩 歩|五
| 歩 ・ 歩 銀 ・ 銀 歩 ・ ・|六
| ・ 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ ・|七
| ・ ・ 金 玉 ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光王将
先手の持駒:角 
【手数=32 △9五歩 まで】

図から▲同 歩△同 香▲9七歩△7五歩▲9六歩!と進んだ。
▲9五同歩△同香に一度は▲9七歩と低く謝ったのに2手後に▲9六歩としている。この時間差の訳は高度すぎて正直ちょっと分からない。
つくづく端は難しい。
この▲9六歩が勝因だったわけではないと思うが先手佐藤王将が勝って遂に2−2のタイに追い付いた。

#一言日記:Macworld Conference & Expo/New York 2002でMac OS X v10.2をはじめ何点か発表された。iToolsが有料サービスの.Macに昇華するのがちょっとショック。有料というのがユーザーに受け入れられるのだろうか?
[2002/07/19 23:10]
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第5局

本局も角換り。郷田棋聖は後手が勝ちきるのは容易ではないと言われている角換り腰掛け銀を受けて立った。
△7五歩▲同歩△8四飛と待機したのに対して先手が▲4五歩から開戦して下図となった。

後手:郷田真隆棋聖
後手の持駒:角 銀 歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・v金v金v玉 ・|二
| ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・v歩 ・|三
|v歩v飛 ・v歩 ・ ・v歩v銀v歩|四
| ・v歩 歩 ・ ・ 飛 ・ 桂 ・|五
| 歩 ・ ・ 歩 ・ ・ 歩 歩 歩|六
| ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ ・ ・ ・|七
| ・ 玉 金 ・ 金 ・ ・ 角 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光王将
先手の持駒:銀 歩二 
【手数=51 ▲4五同飛 まで】

ここから△7六歩▲5五角△3三銀打▲同桂成△同 銀▲6八銀△5四角▲4六飛△6三桂▲5六歩△7五桂と進んだ。
△7六歩〜△5四角が狙いの反撃で、なおかつ本譜は一見気持ちの良かった▲5五角が逆に目標になっていて△6三桂で先手の角が詰んでしまった(してみると▲5五角は疑問だった?)。 しかし、ここでじっと▲5六歩の辛抱がなかなかの手だった。
この辺りの評判は後手が良かったらしいが、先手佐藤王将も粘って局面は次第に混沌としてしてきて、遂に逆転した。
125手で佐藤王将の勝ち。2連敗後の3連勝で棋聖位を奪取して、二冠になった。

#一言日記:川上投手ノーヒットノーラン達成おめでとうございます。
[2002/08/02 22:30]
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