第75期棋聖戦レポート

第1局

佐藤vs森内。棋界でも指折りの両雄だが、今回の棋聖戦ではじめてタイトル戦で対峙する。この事実は、改めてここ10年、タイトル戦が羽生王座中心に回っいたことを認識させられる。
森内はその羽生から竜王、王将、名人とたて続けにタイトルを奪取しての、棋聖戦挑戦になる。最近の充実ぶりがあまりに凄いので森内乗りの声が大きい様だ。

本局は矢倉になった。序盤は森下システムの攻防になると思われたが後手佐藤棋聖が個性的な構想に打って出て定跡形から外れた将棋となった。
図は△4四銀と3三から銀を出たのに対し▲3七銀と2六にいた棒銀をバックしたところ。後手の左辺をいなそうとする手順に呼応した手だ。

後手:佐藤康光棋聖
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v飛 ・ ・ ・v玉 ・v桂v香|一
| ・ ・ ・v銀 ・ ・v金 ・ ・|二
| ・ ・v桂v歩v角v金 ・v歩 ・|三
| ・v歩v歩 ・v歩v銀v歩 ・v歩|四
|v歩 ・ ・ ・ ・v歩 ・ 歩 ・|五
| ・ ・ 歩 歩 歩 ・ 歩 ・ 歩|六
| 歩 歩 銀 金 ・ 歩 銀 ・ ・|七
| ・ 玉 金 角 ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:森内俊之三冠
先手の持駒:なし
【手数=45 ▲3七銀 まで】

ここで後手は△5二玉と指した。
意外と形にこだわらない独特の指し方を披露することが多い佐藤だが、ここで中住まいとは驚いた。
棋譜を追ってみると早い段階で自ら△1四歩と端歩を突いており、先手の棒銀を誘ったのは予定の行動だったと推定する。
ただ、後手番故の苦汁の工夫と見ることもでき、どちらかというと先手を持ちたい中盤戦となった。

後手は受け身の右玉感覚なので、先手がどこから手を作るかということになる。薄い1筋から動いたのは棋理に適っているが、と金を二枚作ったもののあまり思った程の戦禍をあげられなかったのは、少なからず誤算だったと思われる。
図は終盤戦。△3八との桂取りに対し、▲4五桂と逃げ△同銀▲同飛となった局面。先手はと金で3三の桂を取ったが、後手も8三に香を配置し反撃体勢を整えている。

後手:佐藤康光棋聖
後手の持駒:桂 歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|一
| ・ ・ ・ ・v玉 ・ ・ ・ ・|二
| ・v香 ・v銀v角v金v金 ・ と|三
| ・ ・v歩v歩 ・ ・v歩 ・ ・|四
|v歩v歩 ・v桂 歩 飛 ・v歩v香|五
| ・ ・ 歩 銀 金 ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 ・ ・ 銀 ・ ・ ・ ・|七
| ・ 玉 金 角 ・ ・vと ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手:森内俊之三冠
先手の持駒:銀 桂 歩四 
【手数=105 ▲4五同飛 まで】

△8六桂▲7三銀△6二角と進んだ。
△8六桂は矢倉崩しの手筋だが、▲7三銀は意味の分かりにくい手だ。これに対する角の押し売りをする△6二角が強手で印象に残る1手だった。

この後も難しい戦いが続いたが144手で佐藤棋聖が制し、防衛に向けて好発進した。三度羽生を倒した森内三冠だったが、黒星スタートとなった。

#一言日記:大阪近鉄合併の余波で1リーグ制も現実味を帯びてきた。今のプロ野球が巨人におんぶにだっこなのが諸悪の根源なのは明白だから何らかの抜本的改革は必要と思う。
だからと言って1リーグ制というのは短絡的と感じるが、県下のマリンスタジアムでドラゴンズの試合を見れるのは歓迎かな。
[2004/06/18 23:20]
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第2局

第2局は千日手指し直しとなったが、まずはこの将棋から。
後手森内三冠の作戦は最近また流行の兆しが見えつつある角道を止める中飛車。藤井システムの出現で四間飛車で振り飛車は復活したが、最近は四間飛車以外の振り飛車を目にすることが多くなってきた。
中飛車が衰退したのはなんと言っても居飛穴の存在が大きいと思うが、本局は6四に銀を繰り出して穴熊に潜った。ツノ銀中飛車のような玉の薄い戦法は今だ受難の時代で、中飛車に残された選択肢は穴熊しかないようだ。

図は後手が4筋の飛車を2筋に回ったのに対し▲3七桂としたところ。
先手は悠然と仕掛け、後手はじっと我慢の展開かと思ったが後手の手は驚愕に価すると思う。

後手:森内俊之三冠
後手の持駒:歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v玉v桂 ・v金v金 ・ ・v桂v香|一
|v香v銀 ・ ・ ・ ・ ・v飛 ・|二
|v歩v歩v歩v歩 ・ ・v角 ・v歩|三
| ・ ・ ・v銀v歩 ・v歩v歩 ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 銀 歩 ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 ・ 歩 桂 ・ 歩|七
| 香 銀 ・ 角 ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 玉 桂 ・ 金 金 ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖
先手の持駒:なし
【手数=41 ▲3七桂 まで】

ここから△2五歩▲同 飛△同 飛▲同 桂△1五角▲2三飛△2九飛▲2一飛成△4六歩と進んだ。
△2五歩!は普通ではあり得ない手だ。先手の桂を捌かせてしかも角に当たっている。一回は角を逃げなければいけないので飛車を先着されてこれでは何をやっているか分からないが、△1五角の位置が良いので成立するということだろう。
更に△4六歩が手筋で▲同歩なら4筋に歩を垂らして後手良し。▲同角なら△5九角成からの二枚換えである。本譜もそのように進んだが直後に▲1五角の返し技があって成立しているかどうかは微妙だ。

互いに穴熊城が完成していない状態での殴り合いになったが、▲1五角に一回龍を逃げる必要があり、後手は千日手と分かっていても猛攻するしかない状況になってしまった様だ。
それにしても図の△2五歩は思い浮かばない。結果には結びつかなかったものの、この大局観には感銘を受けた。

先後を換えての指し直し局は、後手佐藤棋聖が一手損の角換りを選択した。しかし腰掛銀にはならず互いに工夫の駒組で力戦型に。
後手は早々と飛車を4筋に展開、先手は玉の囲いは後回しで大模様。図は▲3八金としたところ。今だ居玉で頑張っている。

後手:佐藤康光棋聖
後手の持駒:角 歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・v金 ・ ・v飛v金v玉 ・|二
| ・ ・v桂v銀v歩 ・v銀v歩 ・|三
|v歩v歩 ・v歩 ・ ・v歩 ・v歩|四
| ・ ・ 歩 ・ ・v歩 ・ 歩 ・|五
| 歩 歩 銀 歩 ・ ・ 歩 ・ 歩|六
| ・ ・ 桂 金 歩 歩 銀 ・ ・|七
| ・ 飛 ・ ・ ・ ・ 金 ・ ・|八
| 香 ・ ・ ・ 玉 ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:森内俊之三冠
先手の持駒:角 
【手数=45 ▲3八金 まで】

ここから△6五歩▲同 歩△5四銀▲4八玉△6三金▲8三角△4四角と進んだ。
△6五歩が機敏で△4四角としたところでは早くも後手が一本取った感じだ。
このような大模様の将棋は卓越した受けを得意とする森内将棋には合っていると思うが、本局はガードに綻びがあったようだ。

92手で佐藤の連勝、現在最強とうたわれてる森内三冠だが、早くも追い詰められた。巻き返しに期待したい。

#一言日記:大阪近鉄合併問題で新たな進展。ライブドアが買収に名乗りを挙げたが、ナベツネに門前払い状態の様だ。今のプロ野球は伝統とか何とか言っている場合ではないだろう。冒険かも知れないがやらせてみる価値があると思う。
[2004/07/01 00:20]
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第3局

第3局は中座飛車。一口に中座飛車と言っても色々あるが、本局は第51期王座戦第3局のタイプ。そして35手目▲6八銀で別の将棋になった。

図は▲7四歩としたところ。後手の飛角が狭いところに位置しており、飛車は見合いになっている。

後手:森内俊之三冠
後手の持駒:歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一
| ・ ・v金v銀v玉 ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・ ・v歩v歩v歩v桂 ・v歩|三
| ・ ・v歩 ・v飛v角 ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ 飛 ・ 歩 歩 ・|六
| 歩 歩 桂 歩 歩 歩 ・ ・ 歩|七
| ・ ・ 金 銀 玉 ・ 金 銀 ・|八
| 香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖
先手の持駒:角 歩 
【手数=42 △7四歩 まで】

ここから▲4六角△6四歩▲5四飛△同 歩▲3五歩△5五角▲同 角△同 歩▲2七角と進んだ。
先手も▲4六角とこちらも狭い所に角を打ち珍しい形に。
飛車が見合いで一触即発状態だったが、遂に局面が動き出した。飛車交換に続いて5五の地点で角も交換に。
先手が▲5五同角と角交換に応じた(△5五同歩と5筋の歩が伸びてくるのは先手陣に対してかなりの嫌味)のは▲2七角を実現するためと思われる。

図に至るまでに▲2七角を巡る攻防が行なわれた。後手も△6三角と対抗し、何度か角交換が行なわれてこの形に。
図の▲3七桂では▲3四歩△4五桂▲4六歩と桂馬を取りに行く手も考えられるが、▲4五歩と桂を外した形が悪いのでダメということか。
後手:森内俊之三冠
後手の持駒:飛 歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一
| ・ ・v金 ・v玉 ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・ ・v角 ・v歩v桂 ・v歩|三
| ・ ・v歩v歩v銀 ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・v歩 ・ 歩 ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ 歩 ・|六
| 歩 歩 桂 歩 歩 歩 桂 角 歩|七
| ・ ・ 金 銀 玉 ・ 金 銀 ・|八
| 香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖
先手の持駒:飛 歩 
【手数=61 ▲3七桂 まで】

ここから△8六歩▲同 歩△8九飛▲7九金△9九飛成▲3四歩△4五桂▲6五桂と進んだ。
歩を突き捨ててからの△8九飛は手筋でこれで先に後手が飛車を敵陣に打下ろし、駒得する展開になった。
後手がやれるのかなと思ったが、歩頭に跳ねる▲6五桂が好手(△同歩は6四の地点が開く)。形勢判断が全くつかず、一手指した方が良く見える熱戦となった。

少し進んで下図。玉形は後手の方が不安定だ。今度は後手に驚きの手が出る。

後手:森内俊之三冠
後手の持駒:歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v金 ・ ・ 龍 ・ ・v香|一
| ・ ・ ・v銀 ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・ ・v玉 ・v歩 ・ ・v歩|三
| ・ 桂v歩v歩v香 ・ 歩 ・v角|四
| ・ ・ ・v銀v歩 角 ・ ・ ・|五
| ・ 歩 歩 ・ ・ 歩 ・ 歩 ・|六
| 歩 ・ ・ 歩 歩 ・ ・ ・ 歩|七
| ・ ・ ・ 銀 ・ 玉 金 ・ ・|八
|v龍 ・ 金 ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖
先手の持駒:桂二 歩二 
【手数=89 ▲4一飛成 まで】

ここから△3三金▲4二龍△4四金▲2七角△5六歩と進んだ。
△3三金ははっとするような手だ。▲4二龍に△3二金なら千日手模様になるが、本譜はぐいっと△4四金。そして△5六歩としていよいよどちらが優勢か分からなくなってきた。

この後も熱戦は続き、形勢不明のまま終盤まで続いた様だ。まさに熱戦、好局と思う。

結果は133手で佐藤棋聖の勝ち。現在最強と目されている森内三冠に3連勝で棋聖位2連覇を達成した。
森内三冠の3連敗はまさかという感じだ。現時点のタイトル保持者(森内三冠、谷川二冠、羽生王座、佐藤棋聖)はがっぷり四つということか。
結果こそ3タテで終わってしまった今期棋聖戦だが、全ての将棋が好局で充実したシリーズだったと思う。

#一言日記:合併問題。パ・リーグではさらにもう1チームの合併話があり、4チームにしてセとの1リーグ10チーム構想が進んでいると言う。プロ野球界ってつくづくオープンじゃないな、と思う。
[2004/07/08 00:00]
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