第７６期棋聖戦レポート

第１局

今期棋聖戦の挑戦者は羽生四冠(王位王座棋王王将)。平行で森内名人との名人戦も進行中で相変わらず忙しい。
さて第１局は後手一手損角換りに。後手がさらに多く先手に指させることによって利を得ようというのがこの戦法の目指すところだが、本局はどうだったろうか。

腰掛銀で互いの玉を囲い合い下図となった。先手は仕掛ける一手。

後手：佐藤康光棋聖後手の持駒：角　　９８７６５４３２１ +---------------------------+ |v香・・・・・・v桂v香|一 | ・v飛・・・・v金v玉・|二 | ・・v桂・v歩v金v銀v歩・|三 |v歩v歩v歩v歩v銀v歩v歩・v歩|四 | ・・・・・・・歩・|五 | 歩・歩歩銀歩歩・歩|六 | ・歩銀・歩・桂・・|七 | ・玉金・金飛・・・|八 | 香桂・・・・・・香|九 +---------------------------+ 先手：羽生善治四冠先手の持駒：角　【手数＝40 △２二玉まで】
ここから▲４五歩△８五桂▲８六銀△６五歩と進んだ。
▲４五歩に対して攻め合いの△８五桂だが▲８六銀とかわされてからの△６五歩の順はなんとなく空振り感がある。
後手の主張は▲２五歩と突かせているということに尽きるわけだが、ここまでの駒組はどうだったのだろうか。

一時千日手が懸念される局面もあったが、下図からは一歩も引かない攻め合いとなった。

後手：佐藤康光棋聖後手の持駒：角　　９８７６５４３２１ +---------------------------+ |v香・v飛・・・・v桂v香|一 | ・・・・・・v金v玉・|二 | ・・・・v歩v金v銀v歩・|三 | ・・・馬v銀歩・・v歩|四 | 歩v桂銀歩・・歩歩・|五 | ・・歩・銀・v歩・歩|六 | ・歩・・歩・桂・・|七 | ・玉金・金飛・・・|八 | 香桂・・・・・・香|九 +---------------------------+ 先手：羽生善治四冠先手の持駒：歩五　【手数＝65 ▲４四歩まで】
△３七歩成▲４三歩成△４八と▲３二と△同　玉▲５三馬△５一飛▲５二金△同　飛▲同　馬△７七歩▲８五馬と進んだ。
互いに引いては形勢を損ねるので既に攻め合いしかない局面ではある。
守りの金を二枚取れるので先手ペースの流れになる気はしたが、△７七歩の金取りにかまわず▲８五馬と桂馬を外したところでは後手優勢がはっきりした感じだ。先手玉は上部が厚く寄りが見えなくなった。

119手で羽生の勝ち。日程過多の影響はなだそうだ。

＃一言日記：先日は社団戦に参加。大学OBチームで参加しているが、局後の飲み会は他チームで参戦している現役も含め約30名参加の盛大なものとなった。当時の将棋部顧問(御年72歳)もお元気そうでなによりだった。
[2005/06/14 00:20]
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第２局

第２局も後手一手損角換りに。アイディアとしては「あり」だとは思うが、一手損角換りの後手の勝率は低迷している。
さて本局は先手が早めに１筋の端を詰め、右玉含みの展開になった。一手の重みを端に託すのは理にもかなっており、一手損角換りに対し有力と言われている。

図は△７二銀と６三の銀を引いたところ。４三金左の形がいかにも羽生好み。後手番ということもあり千日手も視野に入れての駒組か。

後手：羽生善治四冠後手の持駒：角　　９８７６５４３２１ +---------------------------+ |v香・・v飛・・・v桂v香|一 | ・・v銀・v金・v玉・・|二 | ・・v桂・・v金v銀v歩v歩|三 |v歩・v歩v歩v歩v歩v歩・・|四 | ・v歩・・・・・歩歩|五 | 歩・歩歩銀歩歩・・|六 | ・歩銀・歩・桂・・|七 | ・・・金玉金・・・|八 | 香桂・・・・・飛香|九 +---------------------------+ 先手：佐藤康光棋聖先手の持駒：角　【手数＝46 △７二銀まで】
ここで佐藤棋聖は▲４五歩と指した。
緻密流として知られる佐藤だが、意外なタイミングで攻めることが多いように感じる。ここでの▲４五歩も唐突で脈絡を読み取るのは難しい。

激しい中盤戦真っ最中の下図。羽生は銀桂交換で得た桂で△５六桂としたところ。後手陣も４四に傷があるので桂は互いに欲しい駒ではある。

後手：羽生善治四冠後手の持駒：角　歩二　　９８７６５４３２１ +---------------------------+ |v香・・v飛・・・v桂v香|一 | ・・v銀・v金・v玉・・|二 | ・・・・・v金・v歩v歩|三 |v歩・v歩・v桂・・・・|四 | ・v歩・v桂v歩歩・歩歩|五 | 歩・歩銀・金・・・|六 | ・歩・銀歩・・・・|七 | ・・・金玉・・・・|八 | 香桂・・・・・飛香|九 +---------------------------+ 先手：佐藤康光棋聖先手の持駒：角　銀　歩三　【手数＝66 △５四桂まで】
ここから▲５五金△４六歩▲３九飛△３八歩▲同　飛△２二玉▲６五銀△４七角▲４九玉△３八角成▲同　玉△５九飛▲３五桂と進んだ。
両陣営とも玉形が薄く互いに怖いところだが、△４七角は先手怖いどころの話ではない。しかし△３八角成▲同玉まで進んでみると、飛車一本では後手が足りない様だ。
▲３五桂が厳しく先手良しだろう。してみると△５九飛では先に△３一飛としておく手はなかったのかな？

87手で佐藤の勝ち。王位戦も合わせて残り10回戦。

＃一言日記：将棋チェスネットで第３１期順位戦参加者募集中。メール戦でまったり将棋を指すのも乙なものです。
オープン戦なので興味のある方は参加してみてはいかが。
[2005/06/22 01:20]
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第３局

第３局は矢倉模様となったが、後手佐藤棋聖が△６四歩と注文をつけた。
先手は普通の陣形だが後手は腰掛銀＋３手角の手法で下図となった。

後手：佐藤康光棋聖後手の持駒：なし　９８７６５４３２１ +---------------------------+ |v香・・・・v玉・v桂v香|一 | ・v飛・・v金v銀v金・・|二 |v歩・v桂・v歩・・v歩v歩|三 | ・v角v歩v歩v銀v歩v歩・・|四 | ・v歩・・・・・・・|五 | ・・歩歩歩銀歩歩・|六 | 歩歩銀金・歩桂・歩|七 | ・・金・・・飛・・|八 | 香桂角玉・・・・香|九 +---------------------------+ 先手：羽生善治四冠先手の持駒：なし【手数＝34 △７三桂まで】
ここから先手は▲３五歩と仕掛けた。
しかしこの局面、はっきりと先手が立ち後れており後手にとっては全く不満のない展開に見えるのだが。

少し進んで下図。△３九飛に対して▲５九角打としたところ。
これでは誰の目にも先手が辛すぎると映るのではないだろうか。しかし下図は▲３五歩と仕掛ける段階で羽生が思い描いていた図であるはずで、不可解。

後手：佐藤康光棋聖後手の持駒：なし　９８７６５４３２１ +---------------------------+ |v香・・・・v玉・v桂v香|一 | ・v飛・・v金v銀v金・・|二 |v歩・v桂・v歩・・v歩v歩|三 | ・・v歩・v銀銀・・・|四 | ・v歩・v歩・・・桂・|五 | ・・歩・歩・・歩・|六 | 歩歩銀金・歩角・歩|七 | ・・金・・・・・・|八 | 香桂・玉角・v飛・香|九 +---------------------------+ 先手：羽生善治四冠先手の持駒：歩四　【手数＝53 ▲５九角打まで】
以後あまり見るべきところもなく後手の快勝。88手で佐藤の連勝となった。
それにしても本局の先手の指し方は理解できない。最も凡人の理解の範疇を超えたところの話だとは思うが、羽生の誤算を知りたいものだ。

＃一言日記：ここ数週間休日返上で働いていたが、久方ぶりに休みを取った。予てからの子供との約束通りディズニーシーに行ってきた。
天候は曇りで温度も２２℃程度とこの時期にしては快適だった。でも明日は休出かな。
[2005/07/08 23:50]
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第４局

第４局も矢倉模様。といっても第３局同様流行の形にはならず、下図の様になった。
先手佐藤棋聖が早めに３五歩と動いたため後手矢倉の３三の銀は４三に移動している。図は△６一飛と６二の飛を引いて間合いを計ったところだが、ここで先手の手は思い切ったものだった。

後手：羽生善治四冠後手の持駒：歩　　９８７６５４３２１ +---------------------------+ |v香・・v飛・・・v桂v香|一 | ・・・・v金v角v金v玉・|二 |v歩・v桂・・v銀・v歩v歩|三 | ・v歩v歩v銀v歩v歩v歩・・|四 | ・・・・・・・・・|五 | ・・歩歩歩・・・歩|六 | 歩歩・金銀歩・歩・|七 | ・・金銀・・飛角・|八 | 香桂玉・・・・桂香|九 +---------------------------+ 先手：佐藤康光棋聖先手の持駒：歩　【手数＝50 △６一飛まで】
ここで先手は▲１七桂。
後の方針が的確でないと、桂損してしまう公算が高い手だ。端を詰めていてかつ端に駒の利きがある場合は端に捨てれば桂損でも手になることが多いが、図は援軍がない。
本譜は桂損どころか角損（角銀交換）になってしまい、明らかに先手の作戦に齟齬があったと思われる。

図は終盤戦。▲３三歩としたところ。取っても後手優勢は揺るがないが、プロトップの将棋は違った。

後手：羽生善治四冠後手の持駒：桂　歩二　　９８７６５４３２１ +---------------------------+ |v香・・・と・v角v桂v香|一 | ・・・・・・v金・・|二 |v歩・・・・v銀歩v玉・|三 | ・v歩・桂・v歩v歩v歩・|四 | ・・・銀歩・・・歩|五 | ・・・歩・v角・・香|六 | 歩歩銀・・・・v圭・|七 | ・玉金金v銀・・・v飛|八 | 香・・・・・・・・|九 +---------------------------+ 先手：佐藤康光棋聖先手の持駒：飛　金　歩四　【手数＝101 ▲３三歩まで】
ここで後手は△６七歩。
攻め合いで後手勝ちを見切っているのが凄い。

少し進んで下図。

後手：羽生善治四冠後手の持駒：金二　銀　桂　歩二　　９８７６５４３２１ +---------------------------+ |v香・・・と・・v桂v香|一 | ・・・・・・v金v玉・|二 |v歩・・・・v銀歩・・|三 | ・v歩・桂・v歩v歩v歩・|四 | ・・・銀歩・・・歩|五 | ・・・歩・v角・・香|六 | 歩歩・・・・・v圭・|七 | ・玉龍・・v龍・・・|八 | 香・・金・・・・・|九 +---------------------------+ 先手：佐藤康光棋聖先手の持駒：角　銀　歩四　【手数＝121 ▲７八同飛成まで】
ここから△７九銀▲同　金△同角成▲同　玉△６八金
まで126手まで、後手羽生四冠の勝ち。
切れ味鋭い羽生の終盤を堪能した一局となった。

＃一言日記：今日は棋聖戦以外にもう一つ注目の一戦があった。瀬川晶司氏将棋プロ入り六番勝負第１局は佐藤三段の勝ち。実に色々な問題を孕んでいるが、やはり色々な意味で試金石と言える。
[2005/07/19 00:10]
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第５局

決戦の第５局は羽生四冠の先手。角換りの将棋になり、棒銀vs右玉になった。右玉といっても後手佐藤棋聖の発想は非凡で下図となった。
３三の金は３二から自ら立ったもの。最近の佐藤将棋は形にこだわらない力戦風が目立つ。

後手：佐藤康光棋聖後手の持駒：角　歩　　９８７６５４３２１ +---------------------------+ |v香・・・・・・v桂v香|一 | ・・・v玉v金v飛・・・|二 |v歩・v桂v銀v歩・v金v歩・|三 | ・v歩v歩v歩・・v銀・v歩|四 | ・・・・・v歩・歩・|五 | ・・歩歩歩・・・・|六 | 歩歩銀金・歩銀・歩|七 | ・玉金・・・・飛・|八 | 香桂・・・・・桂香|九 +---------------------------+ 先手：羽生善治四冠先手の持駒：角　歩　【手数＝39 ▲５六歩まで】
ここから△３五銀▲２六銀△同　銀▲同　飛△５八角▲６五歩△同　歩▲８二銀△６四銀と進んだ。
△３五銀も力強さを感じる。対する▲２六銀も強気の一手で、強気と強気がぶつかり合った見応えのある将棋になった。
△６四銀も筋の良い人は逆に浮かばない手ではないだろうか。無骨な感じがする一着だ。
戻って▲８二銀はやや気が利かない感じがするが、こう指すものだろうか。

終盤は羽生が入玉含みの指し方を見せるものの佐藤がきれいに寄せて、88手で勝利を手にした。

最近の佐藤棋聖は、定跡と筋の呪縛から解き放たれた開放感のある指し方が目立つ。常識にとらわれず自分の指したい手を指している感じがして良い。
強敵を破って棋聖位四連覇を達成した。

＃一言日記：スペースシャトルディスカバリー号が26日ようやく打ち上がった。野口さんいってらっしあ～い。
[2005/07/29 01:20]
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