第1局
現在の将棋界は羽生世代が牽引しているといっても過言ではない。羽生、森内、佐藤等に並んで郷田九段もその一人だ。
羽生世代の共通点は、ただひたすら将棋の真理を追究しているところ、だったと思う。その対局姿勢はまるで神と対峙しているかのようだった。
しかし年を重ねて、変化が生じたように思う。佐藤棋聖の変貌ぶりが分かり易い。
そんな中、頑に自分のスタイルを通している棋士、郷田九段にはそんな魅力がある。
さて郷田九段先手の第1局、森内名人は角道を開けたままの向飛車を採用した。第62期名人戦第1局で羽生を破った験のよい作戦だ。
図は序盤戦、封じ手の局面だ。
後手:森内俊之名人
後手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・v桂v銀v金 ・v金 ・v桂v香|一
|v香v玉 ・ ・ ・ ・ ・v飛 ・|二
|v歩v歩 ・ ・v銀v歩v角v歩v歩|三
| ・ ・v歩v歩v歩 ・v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ 角 歩 歩 歩 ・ 歩 歩 ・|六
| 歩 歩 ・ 金 銀 歩 ・ ・ 歩|七
| ・ ・ 玉 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 銀 金 ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:郷田真隆九段
先手の持駒:なし
【手数=25 ▲3六歩 まで】
封じ手は△6二飛。
以下▲3七桂△4四歩▲8八玉△5二金左▲7八金△9一玉▲9八香と進んで相穴熊の将棋になった。
後手の布陣は角道が開いたままというのがメリットだが、▲3七桂△4四歩で角道が止まった。これを見て、もともと穴熊指向の後手に追従するように先手も穴熊を目指す。
図は△9四桂と指したところ。角切りを催促している。
後手:森内俊之名人
後手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v玉v桂v金 ・ ・ ・ ・ ・v香|一
|v香v銀 ・ ・v金 ・ ・ ・ ・|二
|v歩v歩 ・ ・v銀 ・ とv歩v歩|三
|v桂v角 歩 ・v歩v歩 ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v飛 ・ ・|五
| ・ 角 ・ 銀 歩 ・ ・ 歩 歩|六
| 歩 歩 銀 金 ・vと ・ ・ ・|七
| 香 ・ 金 飛 ・ ・ ・ ・ ・|八
| 玉 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:郷田真隆九段
先手の持駒:桂 歩四
【手数=64 △9四桂 まで】
ここから▲5三角成△同金▲7三桂△3九飛成▲8一桂成△同金▲7三桂△同銀▲同歩成△同角▲5五歩△5八とと進んだ。
先手は当然▲5三角成。攻めを催促するのはいかにも森内名人らしい選択だ。7三の角で1九の香を取って自陣に成り帰れば後手ペースになる。
そんな後手の目論みを看破したのが▲5五歩だった。この忙しい時に手番を渡すのは勇気がいる。△5八とで攻守が入れ替わった。
図は△7九同龍と飛と金を剥がしたところ。
後手:森内俊之名人
後手の持駒:飛 桂二 歩
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v玉v金 ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
|v歩v歩v角 ・v金 ・ とv歩v歩|三
|v桂 ・ ・ ・v歩v歩 ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ 銀 ・ ・ ・ 歩 歩|六
| 歩 歩 銀 金 ・ ・ ・ ・ ・|七
| 香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 玉 桂v龍 ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:郷田真隆九段
先手の持駒:角 金 銀二 歩五
【手数=84 △7九同龍 まで】
ここから▲6八銀打△7八歩▲7四歩△8二角▲7三角△3九飛▲8八金と進んだ。
▲6八銀打と外から銀を打つのが好手で▲8八銀では△7八歩で後手優勢になるようだ。
郷田九段の先勝。
#一言日記:郷田真隆九段の挑戦は順位戦8回戦で7勝目を挙げたところで既に決まっていた。奇しくもその日の早朝、ご尊父が亡くなったという。ご冥福をお祈り致します。
[2007/04/15 23:40]
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第2局
後手の矢倉は苦労する。矢倉戦の第2局は先手森内名人の陣形が手厚く先手ペースの将棋になったかと思われた。
図は封じ手の局面。この局面、形勢の優劣は不明かもしれないが、ほとんどの人が先手を持ちたいのではないだろうか。
後手:郷田真隆九段
後手の持駒:歩
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
|v飛 ・ ・ ・ ・v角v金v玉 ・|二
| ・ ・v銀v歩 ・v金v銀v歩 ・|三
| ・v歩 ・ ・v歩v歩v歩 ・v歩|四
|v歩 ・ 歩 歩 ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 銀 銀 歩 角 歩 ・ 歩|六
| 歩 歩 ・ 金 ・ 歩 ・ 歩 ・|七
| ・ 玉 金 ・ 飛 ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:森内俊之名人
先手の持駒:なし
【手数=47 ▲5八飛 まで】
封じ手は△4五歩。以下▲3七角△4四銀▲8六歩△6四歩と進んだ。
主催紙Webで予想クイズをやっていて、応募したところ当選したようだ。
下図は中盤戦。▲同銀左の一手と思われたが...。
後手:郷田真隆九段
後手の持駒:歩四
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂 ・|一
|v飛 ・ ・ ・ ・ ・v金v玉 ・|二
| ・ ・ ・ ・v銀v金 ・v歩v香|三
| ・v歩v銀v角v歩 ・v歩 ・ ・|四
|v歩 ・ ・v歩 歩 歩 ・ ・v歩|五
| ・ 歩 銀 銀 ・ ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 ・ ・ 金 ・ ・ 角 歩 ・|七
| ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ 飛 ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:森内俊之名人
先手の持駒:歩
【手数=72 △6五歩 まで】
ここから▲5四歩△3七角成▲同桂△5四銀▲4四歩△同金▲7七銀△7五歩▲8七銀△5六歩▲5三角△4三歩▲4五歩△5五金と進んだ。
▲5四歩が意表の一手。一気の斬り合いは後手が先に一枚得をする。しかし郷田九段は△5四銀と手を戻して、穏やかな展開となった。
6筋と7筋の位を取り返される形になったが、先手陣は銀冠の堅陣だ。5三角と先着して依然先手ペースだと思う。
さらに少し進んで下図。混沌としているもののまだ先手が良さそうだ。後手は手に乗って指してチャンスを伺っている。
後手:郷田真隆九段
後手の持駒:角 桂 歩四
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂 ・|一
|v飛 ・ ・ ・ ・ ・v金 ・ ・|二
| ・ ・ ・v銀 ・v歩 ・ ・v玉|三
| ・ ・ ・ ・v銀 ・v歩v歩 ・|四
|v歩 ・ 馬v歩v金 歩 ・ ・v歩|五
| ・ 銀 ・ ・v歩 ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 銀 ・ 金 ・ ・ ・ 歩 ・|七
| ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ 飛 ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:森内俊之名人
先手の持駒:香 歩三
【手数=96 △1三同玉 まで】
ここから▲8四歩△7二飛▲7四歩△同銀▲5三馬△3七角と進んだ。
▲8四歩は8三にと金ができたらゲームセットなので、後手に無理に動いてもらって優勢になろうという手だ。
しかし、△7二飛と勝負されると一気に難解な形勢になった気がする。どうやら▲8四歩は疑問手だったらしい。
これで郷田九段の2連勝スタートとなった。郷田にしてみれば、後手番の矢倉を制した本局の勝利の持つ意味はとても大きいと思う。
実績から森内名人防衛と予想していたが、現状は挑戦者奪取が現実味をおびてきた。
#一言日記:ようやくGW!今の職場に今ひとつ馴染めず以外とストレスが溜まっている。しっかりリフレッシュしたいと思う。
[2007/04/29 02:20]
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第3局
それは思いもよらない戦型だった。郷田九段の振り飛車!
第3局のオープニングは▲7六歩△3四歩▲7五歩で始まり、先手郷田は3筋に後手森内は2筋にそれぞれの飛車を振る相振り飛車となった。
図は序盤戦。早めの▲5六銀で後手は角道を止めている。後手は守備的陣形になる予感がするが、それは森内の最も得意とする展開だ。
後手:森内俊之名人
後手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金v玉v金 ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v飛 ・|二
|v歩v歩v歩v歩v銀 ・v角v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・v歩v歩v歩 ・ ・|四
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ 歩 銀 ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ ・ 歩 歩 歩 歩 歩|七
| ・ 角 飛 ・ ・ ・ 銀 ・ ・|八
| 香 桂 ・ 金 玉 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:郷田真隆九段
先手の持駒:なし
【手数=15 ▲3八銀 まで】
ここから△4二飛▲4八玉△4五歩▲3九玉△7二金▲7四歩△同歩▲9六歩△5二金▲9五歩△2四歩と進んだ。
先ほど2筋に振ったばかりの飛車をこのタイミングで4筋に振り直すのはかなり違和感がある。手損よりも守備的陣形を重視したということだろうか。△4五歩と突き越した形は先手の攻めに制約を与えているので、守備的要素が高い。
対する先手の方針は分かり易い。玉形は最短の美濃で留めて、三間飛車の特性を活かした攻撃的布陣から先攻する。郷田の気風からもそうなると予想していた。
▲9五歩は余裕を感じる手で、この手を見たときは郷田3連勝の予感もしたのだが...。
△2四歩は封じ手だが、これは予想が外れた。手の流れから△6四歩から玉側を厚くすると思ったからだ。
図は△6四銀としたところ。石田組を牽制した手だ。△2四歩〜2五歩を△6四銀とするための間合いをはかった手かも知れまい。
後手:森内俊之名人
後手の持駒:歩
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v玉 ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・v金v銀v金v飛 ・ ・ ・|二
|v歩v歩 ・v歩 ・ ・v角 ・v歩|三
| ・ ・ ・v銀v歩 ・v歩 ・ ・|四
| 歩 ・ ・ ・ ・v歩 ・v歩 ・|五
| ・ ・ 飛 歩 銀 ・ ・ ・ ・|六
| 角 歩 ・ ・ 歩 歩 歩 歩 歩|七
| ・ ・ ・ ・ 金 ・ 銀 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 金 玉 桂 香|九
+---------------------------+
先手:郷田真隆九段
先手の持駒:歩
【手数=34 △6四銀 まで】
ここから▲7七桂△7五歩▲9六飛△7三金▲6七銀△8四金▲8六飛と進んだ。
▲7七桂は△7五歩が見えているだけに決断の一手だ。しかし、実際△7五歩を決められると先制攻撃を仕掛けるための布陣だったのに、狙いが頓挫してしまった。
△7三金〜8四金が相手の攻め駒を攻める森内らしい手だ。△9四歩とされてはたまらないので、▲8六飛とするしかないようでは、早くも後手優勢になったと思う。
森内が後手番で1勝を返した。郷田は不慣れな戦型で敗戦してしまった訳だが、▲7五歩を指すに至った心境を是非知りたいと思う。
#一言日記:第2局の主催紙Webの「次の一手」で当選した。畠山鎮七段の(微妙な)色紙が当たった。「今年は昇級する かも」って...。
[2007/05/13 02:00]
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第4局
第4局は矢倉。1日目は先期名人戦第3局(谷川○vs●森内)と同様の進行となった。
その将棋は森内名人は後手をもって指している。森内独特の柔軟な受けが出て後手もやれるかと思ったが、先手谷川九段の光速流の勝利となった。どうしても受けにまわる後手が大変なイメージがある。
さて、谷川ー森内戦からの分岐点は下図の△4七角。△6九角を4七角としたのが郷田の工夫か。谷川ー森内戦で出現した▲5八銀の筋がなくなるとはいえ、ますます守備的という印象は否めない。
後手:郷田真隆九段
後手の持駒:歩
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v玉 ・|二
|v歩 ・ ・v歩 ・v金v銀v歩v歩|三
| ・ ・ 歩v銀v歩v歩v歩 ・ ・|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ 歩 歩 ・|五
| ・ ・ ・ 歩 歩 銀 ・ ・ 歩|六
| 歩 歩 銀 金 ・v角 ・ ・ ・|七
| ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:森内俊之名人
先手の持駒:角 歩
【手数=58 △4七角 まで】
ここから▲4一角△5三金▲7三歩成△同銀▲5五歩△3六角成▲5四歩△同馬と進んだ。
▲4一角は谷川ー森内戦でも出現した先手の反撃手段。△5三金では△6二飛が手堅いが攻め味がなくなるのを嫌ったか。
▲5四歩には△4三金寄が郷田の読みで、本譜△5四同馬は予定変更のようだ。
馬を自陣に引きつけてまずまずという気もするが。この程度では攻めている先手をもちたいというのが現代矢倉の特徴と言える。
先手は▲2五歩△同歩と2筋に綾をつけてから飛車を5筋に回り、いよいよ馬を目標に動いてきた。
図は飛車を呼び込んで△5四歩としたところ。
後手:郷田真隆九段
後手の持駒:歩四
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ 角 ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v玉 ・|二
|v歩 ・v銀v歩v金 ・ ・ ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・v馬v歩 ・v銀 ・|四
| ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・v歩 ・|五
| ・ 銀 ・ 歩 飛 銀 ・ ・ 歩|六
| 歩 歩 ・ 金 ・ ・ ・ ・ ・|七
| ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:森内俊之名人
先手の持駒:歩四
【手数=84 △5五歩 まで】
ここから▲2三歩△3一玉▲5五銀△4五馬▲5四歩△5二金▲同角成△同飛▲4三歩と進んだ。
▲4三歩は指されてみれば納得の好手。2三と4三に歩が残ってはとても生きた心地がしない。
終わってみれば先手森内の快勝だった。
森内にとってれみれば2連敗で苦しいスタートだったが2連勝でタイに戻した。
#一言日記:土曜日は長男の運動会。運動会は秋の行事という印象があるが最近はこの時期に開催する学校が多いらしい。心配の雨が杞憂に終わって良かった。
[2007/05/21 00:10]
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第5局
郷田九段2連勝でスタートした今期名人戦だが、森内名人が2連勝して同星となっている。郷田にしてみれば先手番である本局は落としたくない一番であろう。
さて相掛りの本局だが、後手が攻勢を取るという珍しい展開となった。
図は▲4四歩と垂らしたところ。4四の地点は後手陣の急所だ。しかしここではすでに郷田九段は先手がやり損なっていると感じていたそうだ。
後手:森内俊之名人
後手の持駒:歩五
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・v銀v桂v香|一
| ・ ・v金 ・v玉 ・v金v角 ・|二
| ・ ・ ・v歩v歩 ・ ・ ・v歩|三
|v歩 ・v飛v銀 ・ 歩v歩 飛 ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・ ・|五
| 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| ・ 歩 ・ 歩 歩 銀 歩 ・ 歩|七
| ・ 角 金 玉 ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ ・ 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:郷田真隆九段
先手の持駒:なし
【手数=43 ▲4四歩 まで】
ここから△2三歩▲3四飛△3三金▲3六飛△3四歩▲5六銀△4四金▲同角△同角▲3四飛△2二角▲6六歩△4六歩と進んだ。
△2三歩から△3三金と3二の金で4四の歩を払うのが、森内名人らしい受けの構想だった。
なにごともなく4四の歩を取りきられてしまってはゲームセットだが、△4四金に▲同角と切ったのが勝負手で、以外とまだ難しいと思われていた。
しかし▲6六歩が甘い手で△4六歩で先手優勢。▲6六歩では▲4四歩が一目。当然郷田も読んだがあまり自信がなかったとのことだ。ただ本譜ははっきり先手が悪いので、せめて急所の▲4四歩を指して欲しかった。
これで郷田九段3連敗。形勢を悲観しすぎての敗戦が多いのが気になる。格調高い気風なのも郷田将棋の魅力だが、それだけでは名人にはなれないと思う。
森内は永世名人にリーチとなった。
#一言日記:超人ロックが40周年だそうで。ロックは好きで最近コミックを読み直している最中だ。6月9日は超人ロックの日。
[2007/06/03 23:45]
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第6局
第6局、挑戦者郷田九段にとっては背水の陣の第6局。森内名人にとっては永世名人の掛かった第6局。第6局は双方得意の矢倉に。
近年、復活の兆しのある森下システムから下図に。△6五歩は封じ手で前例もあるとのこと。
後手:郷田真隆九段
後手の持駒:角 歩二
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v玉 ・|二
| ・ ・v銀 角 ・v金v銀v歩v歩|三
| ・v歩 ・ ・ ・v歩v歩 ・ ・|四
|v歩 ・ ・v歩v歩 ・ ・ 歩 ・|五
| ・ ・ ・ 歩 ・ 銀 ・ ・ ・|六
| 歩 歩 銀 金 ・ 歩 ・ ・ 歩|七
| ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:森内俊之名人
先手の持駒:歩二
【手数=52 △6五歩 まで】BR>
ここから▲7二歩△5三金▲4一角成△7四角▲5一馬△6六歩▲同銀△4七角成▲5四歩と進んだ。
▲7二歩が森内が準備していたと思われる手。と金を作る手を見せて後手にプレッシャーを与える狙いだが、8一の桂はいつでも△9三桂と跳ねられるので、かなり緩い手に映った。
しかし、名人の選択した手が疑問手であるはずもなく、△7四角から△4七角成と馬を作り返した後手に対し、▲5四歩が当たりをキツくする手筋の好手だった。
5四の拠点は後に5三のと金となり先手優勢となった。
この差を慎重な指し手で保ちつつ終盤に。十八世名人誕生が確実になったと誰もが思ったが、将棋は最後まで何が起きるか分からないゲームだ。
図は△2五歩の中合に▲同飛△1四玉としたところ。次の一手で後手玉は一見受けなしだが...。
後手:郷田真隆九段
後手の持駒:角 金 銀 桂 香 歩四
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ 馬 ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 歩 ・ ・ ・v金 ・ ・|二
| ・ ・v桂 ・ ・ ・v銀 ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・v玉|四
|v歩 ・ 銀 ・ ・v歩 ・ 飛 ・|五
| ・ ・ ・ 金 ・ ・ 金 ・ ・|六
| 歩vと ・ 玉 ・ ・ ・ ・ 歩|七
| ・ ・ ・ 銀 ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手:森内俊之名人
先手の持駒:歩六
【手数=124 △1四玉 まで】
ここから▲3三馬△4九角▲5八歩△7八銀▲5七玉△5三香▲4七玉△5八角成▲3八玉△4六桂と進んで大逆転。
▲3三馬で受けなしになった先手は形作りの王手をしているように見えたが、△4六桂で困っている。▲同金は△2五馬と飛車を抜かれてしまう。
勝負は最終局で、ということになった。
慎重なイメージのある森内なので不可解な逆転劇だが、これが永世名人のプレッシャーなのかも知れない。
勝負に淡白なイメージのある郷田だが、絶望的な局面でも指し続けることの意味を感じ取ったかも知れない。
将棋は(人間の)相手がいる競技だ。鉄板流の森内が必勝の場面で間違えてしまう。こんなことが実際に起こってしまうのが面白いのだ、と思った。
#一言日記:近くにあじさい屋敷に4年振りくらいに行ってみた。辺り一面あじさいという景色は一見の価値があると思う。
[2007/06/18 00:45]
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第7局
いよいよ、最終戦。2日目にあたる6月29日は年休を取って万全を期した(?)。
角換り腰掛け銀から後手が△4二飛としたところ。右金を動かしていないため発生する変化だが、守勢になってしまうのは否めない。
後手:森内俊之名人
後手の持駒:角
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・v金 ・ ・v玉v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・v飛v金 ・ ・|二
| ・ ・v桂 ・v歩 ・v銀v歩 ・|三
|v歩 ・v歩v歩v銀v歩v歩 ・v歩|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| 歩 ・ 歩 歩 銀 歩 歩 ・ 歩|六
| ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ 桂 ・ ・|七
| ・ ・ 金 ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 玉 ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:郷田真隆九段
先手の持駒:角
【手数=38 △4二飛 まで】
▲8八玉△2二玉▲4八飛△5一金▲6八金右△9二香▲2八飛△3一玉▲9八香△2二玉▲9九玉△6五歩と進んで開戦した。
▲6八金右の局面は手順は違うが同一局面がある(第59期A級順位戦谷川○vs●佐藤)。佐藤はここで△6五歩と仕掛けたが、森内名人は△9二香。後手は千日手も辞さずの構えだ。
これに乗じて先手郷田九段は▲9八香から穴熊に組み換えた。先手は後手が仕掛けて来るタイミングでカウンター攻撃するのが狙いなので、これは千日手か、と思ったが、▲9九玉を見て△6五歩と仕掛けた。
これが最善の間合いとは思えないが、この辺りの心境の揺れは当事者しか分からない類いのものだろう。
図は▲6四歩と嫌みな歩を垂らしたところ。後手の桂得だが、この瞬間は2六で遊んでいる。しかし穴熊が遠いので、先手が良いと思っていたが、郷田は「いろいろ苦しい」と思っていたようだ。
後手:森内俊之名人
後手の持駒:桂 歩二
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・v金 ・ ・v桂v香|一
|v香 ・ ・ ・v飛 ・v金v玉 ・|二
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v銀v歩 ・|三
| ・ ・ ・ 歩v銀v歩v歩 ・v歩|四
| 歩 ・ 馬 ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| ・ 歩 ・ ・ 銀 歩 歩v桂 歩|六
| ・ ・ 金 ・ 歩 ・v馬 ・ ・|七
| 香 銀 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 玉 飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:郷田真隆九段
先手の持駒:桂 歩四
【手数=75 ▲6四歩 まで】
ここから△4六馬▲4七歩△7四歩▲6三歩成△7五歩▲5二と△7六歩と進んだ。
この辺りが形勢を左右する大きなポイントだったと思う。▲4七歩では悠然と▲7四歩はないだろうか。ちなみに郷田の加藤九段の推薦手は▲6六桂。
▲4七歩に△7四歩が当然の切り返しで、▲6三歩成と成り捨てるのでは先手変調だろう。ここで△6三同銀と手を戻さずに強く△7五歩と大駒を取り合って大決戦になった。
図は△1九飛成と香を補充したところ。7筋に香を打つのが厳しい狙いとなっている。
後手:森内俊之名人
後手の持駒:角 香 歩二
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
|v香 ・ ・ ・v金 ・v金v玉 ・|二
| ・ ・ ・v銀 ・ ・v銀v歩 ・|三
| ・ ・ ・ ・ ・v歩v歩 ・v歩|四
| 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| ・ 歩 龍 ・ ・ 歩 歩v桂 歩|六
| ・ ・ ・ 銀 歩 ・ ・ ・ ・|七
| 香 銀 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| ・ 玉 歩 ・ ・ ・ ・ ・v龍|九
+---------------------------+
先手:郷田真隆九段
先手の持駒:角 金 桂二 歩四
【手数=100 △1九飛成 まで】
ここから▲6四歩△同銀▲7二龍△6三角▲7一龍△6六歩▲同銀△7二香▲2四桂△同歩▲同歩△7八香成▲同玉△5一歩と進んだ。
▲6四歩はこう指したいところだが、急ぎ過ぎ。ここは▲8三角と指すところらしい。▲7二龍に△6三角と打った角が、一見受けただけのようだが、最後は先手玉の逃げ道を封鎖する絶好の一手となる。
狙いの△7二香を実現して、△5一歩を受けて、鉄板流全快といったところか。
この後先手も粘るが厳密にはこの辺りで気持ちは切れていたと思う。
遂に158手で郷田九段が駒を投じた。森内名人の防衛が決まったとともに第18世永世名人の資格を得た瞬間だ。
羽生より先に永世名人となったわけだが、実績が羽生より少ないとかそんなことに臆することは一つもない。ここまで来たらいずれ羽生が挑戦してくるまで、名人位を防衛し、返り討ちにする位の気概でいて欲しい。
森内名人おめでとうございます。
#一言日記:Majorの3rdシーズン終了。4thシーズンは2008年1月から放送とのこと。楽しみです。
[2007/07/01 02:00]
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