第49期王座戦レポート

第1局

第49期王座戦が始まった。
個人的な見どころは、「急成長株の挑戦者久保七段の強さは本物か」「羽生の四間飛車対策」の2点。
久保が挑戦者になった棋王戦は記憶に新しい。この時は3−1で羽生が防衛したが、内容では王者羽生に決してひけを取らないものだった。その時の勢いそのままに王座戦も挑戦者になった久保だが、今回もまた羽生を苦しめることが出来れば強さは本物と判断してもよいと思う。
一方の羽生。私の目からは明らかに棋王戦の羽生は苦戦していた。また竜王戦でも藤井からのタイトル奪取は出来なかった。これはどういうことか? 「羽生は対四間飛車が苦手なのでは?」という大胆な仮説が頭よぎってしまう。
おそらく、これは羽生は対四間に色々な作戦を試しており、一過的な現象と思う。そろそろ羽生の頭脳の対四間飛車バージョンアップ版が出来上がっても良い頃合だ。
諸々の期待の中、王座戦が始まったが、本局は(期待に反して)羽生の完勝譜だった。

後手:久保利明七段
後手の持駒:桂 歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v角v金 ・ 龍v歩 ・ ・|一
| ・v玉v銀 ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
| ・v歩v歩v金 ・ ・ ・v歩 ・|三
|v歩 ・ ・v銀v歩 桂 ・ ・v歩|四
| ・ ・ ・v歩 ・ ・ ・ 歩 ・|五
| 歩 角 歩 歩 歩 ・ ・ ・ ・|六
| ・ 歩 ・ ・ 金 ・ ・ ・ ・|七
| 香 銀 金 香 ・v龍 ・ ・ ・|八
| 玉 桂 銀 ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王座
先手の持駒:香 歩二 
【手数=99 ▲6六歩打 まで】

図は既に先手羽生が良さそうだ。図は▲6六歩と合わせたところ。▲6六歩は好手と思う。以下、
△4四角▲同 龍△同 龍▲6五歩△5三銀▲6四歩6二金引▲6七香打△6四銀▲6三歩△同 銀▲6四角△9五歩▲3一角成と進んで先手必勝形に。
こういう展開になると完全に居飛穴ペースと言って良いだろう。直ぐに香車を精算しないで▲6七香打も手厚い。
△9五歩に手抜きで▲3一角成としているが、居飛穴が端を受けた事が居飛穴にプラスに働いている。
本局は後手の久保の作戦が中途半端だった気がする。
第2局以降も、振り飛車党の私は全面的に久保を応援しようと思う。
#一言日記:WEBで速報で棋譜を公開してない棋戦は王座戦だけ。何とかならないですかね>日経新聞さん。
[2001/09/07 0:40]
王座戦に戻る

第2局

第2局、久保の初手は何と▲1六歩。
インパクトは強いものの、久保の作戦は藤井システム模様の四間飛車と決まっているので大勢に影響はなさそうだ。
本局の序盤は、後手の羽生の右銀の動きが面白かった。△6四銀とした後△5三銀と引く伸縮自在な差し回がそれで、さらに先手玉が美濃へ入城したのを見て△3三角と完全に持久戦に切り替えた。緩急自在な差し回しで先手陣を翻弄したかに見えた。
しかし後手が△1二玉と端玉にした瞬間に▲9五歩としたのが機敏だった。後手は端玉なので手駒が入れば端から手が作れる。これで先手ペースか?

後手:羽生善治王座
後手の持駒:香 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v銀v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金 ・v玉|二
| ・ ・v桂v歩v銀v金v角v歩 ・|三
|v香 ・v歩 ・v歩v歩v歩 ・v歩|四
| 歩 ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・v歩 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ 歩|六
| ・ 歩 角 ・ ・ 金 桂 歩 ・|七
| ・ ・ ・ 飛 ・ ・ 銀 玉 ・|八
| ・ 桂 ・ 銀 ・ 金 ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:久保利明七段
先手の持駒:歩 
【手数=50 △8六歩 まで】

図は先手の端攻めに手筋の△8六歩で反撃したところ。以下、
▲9四歩△8七歩成▲9五角△5一角▲8四歩△9一香▲9三歩成△同 香▲8三歩成△同 飛 ▲8四香△8五桂▲8三香成△9五角▲9三成香△6八角成▲同 銀と進んだ。
▲9四歩が急ぎ過ぎだった。▲9五角と7三の桂に当てて角を飛び出したのが調子が良さそうだが△5一角がそれを上回る好手だった。手順を尽くすものの7三の桂は△8五桂と捌かれ、5一の角も△9五角〜△6八角成と捌かれてしまった。結局大駒の総交換になったが、こうなると金銀4枚で堅陣の後手が指し易い。
戻って図の△8六歩に普通に▲8六同角が良かった様だ。
以下は羽生の強さばかりが目立つ将棋だった。これで羽生2勝。第3局は勝敗はともかく久保の軽快な振り飛車を見たいものだ。
#一言日記:米国の同時テロで犠牲になった方々には心から御冥福をお祈りします。しかしこれで戦争に至っては20世紀の過ちをまた犯すだけでは...。
[2001/09/23 23:50]
王座戦に戻る

第3局

善戦を期待していた王座戦も、ここまでは羽生が格の違いを見せつける形となっている。久保にしてみれば、このままでは終われないと思っているはずだし、対局過多の羽生は本局で終わらせて、竜王戦一本に調整したいというのが本心だろう。
後手の久保はいつもの四間飛車。対する羽生は早めに▲6八角〜▲6六銀として一目散に端玉にする趣向の作戦だった。最終的には居飛穴の丁度香と玉が反対の囲いを目指す、田中寅彦九段がたまに見せる指し方で、アマチュアでもこれを得意としている人も多そうだ。ここでは「端美濃」と呼ぶことにする。
端美濃は確かに玉は堅そうだが(実は居飛穴の方がよっぽど堅くて遠い)、玉型を固める以外にこれといって方向性に乏しい指し方と個人的には思っている。
端美濃を羽生が採用したのは意外だったが、案の定、四間飛車側が普通に指しているだけなのに捌きあった時点では後手有利な局面になった様だ。

後手:久保利明七段
後手の持駒:飛 歩三 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v玉v銀 ・v金 ・ ・ ・ ・|二
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|三
| ・ ・v歩 ・v銀 ・v歩 ・v歩|四
|v歩 ・ ・v歩v角 桂 ・ ・ ・|五
| ・ 銀 歩 ・v歩 歩 歩 ・ 歩|六
| 歩 歩 ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・|七
| 玉 銀 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 金 ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王座
先手の持駒:飛 角 歩 
【手数=70 △5五角打 まで】

図は△5五角の好打で後手が有利を拡大しようとした局面。以下、
▲5三飛△6三金▲3二角△4三歩▲5四飛成△同 金▲4三角成△4四金と進んだ。
▲5三飛は一発逆転を狙った勝負手だが、△6三金が冷静で何も起きない。以下も波瀾はなく96手で久保がカド番を凌いだ。
将棋世界誌11月号に久保七段の王座戦第一局の自戦記が載っている。この将棋は周知の通り久保にとっては非常に出来の悪い将棋だったので事前に依頼があったこととは思うがさぞかし書き辛かったと思う。この自戦記の最後の方で久保の決意が書かれているが、これを読んでますます久保を応援したくなった。
#一言日記:ハッピーマンデーの体育の日と合わせて3連休。折角の体育の日だが10月第2月曜は雨の日が多いという統計があるらしい。さて今年は…。
[2001/10/06 23:30]

第4局

先手の久保四間飛車に対し本局の羽生は居飛穴模様の早めの△5七銀から6四銀〜7五歩と最短距離で仕掛けた。仕掛けた局面は下図になる。

後手:羽生善治王座
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・v金v銀v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v玉v角 ・|二
|v歩 ・ ・v歩 ・v歩 ・v歩v歩|三
| ・ ・ ・v銀v歩 ・v歩 ・ ・|四
| ・v歩v歩 ・ ・ ・ ・ ・ 歩|五
| ・ ・ 歩 歩 ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 角 銀 歩 歩 歩 歩 ・|七
| ・ ・ ・ 飛 金 玉 銀 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:久保利明七段
先手の持駒:なし
【手数=22 △7五歩 まで】

藤井システム以降の新しい指し方でありそうでなさそうな局面だ。端に手を費やしているので玉がまだ4八で、居飛車の右金は6一金から動いていない。
振り飛車側からしてみれば、そもそもこの局面を受け入れることが出来なければ藤井システムの布陣を取れないということになる。
ここから、▲3九玉△7六歩▲同銀△7五歩と位を取った後、銀を7三〜7四と組み直し準急戦の展開となり、下図を迎えた。

後手:羽生善治王座
後手の持駒:歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・v銀v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・v金v金v玉v角 ・|二
|v歩 ・v桂 ・ ・v歩 ・v歩v歩|三
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・|四
| ・ ・v銀 歩 金 ・ ・ ・ 歩|五
| ・ 歩v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 ・ ・ 銀 ・ 歩 歩 歩 ・|七
| 香 ・ ・ ・ 飛 ・ 銀 玉 ・|八
| ・ 桂 ・ ・ 角 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:久保利明七段
先手の持駒:歩四 
【手数=51 ▲5五金 まで】

居飛車の自陣の4ニには銀ではなく金になっているのがちょっとした工夫で、本局のような1筋を突き越されているケースには利点も多い。
図から△5四歩▲4五金△6五桂▲6六歩△同 銀▲同 銀△同 角▲6八飛△5七銀▲6七飛△6四歩と進んだ。
一見▲6八飛で振り飛車捌き形に見えるが、△5七銀が重たいながら振り飛車を捌かせないための手段で、△6四歩と手を戻したところでは居飛車に不満がない将棋になってる。
結局108手で羽生が本局を制し、第49期王座戦を3−1のスコアで防衛した。
久保も頑張ったがやはり羽生は強かった。これで羽生は10連覇、やはり強い。最後に王座戦10連覇の軌跡を記してくおく(日本経済新聞2001/10/12より)。
表 羽生王座 10連覇の軌跡
スコア相手
1992年3-0福崎文吾王座
1993年3-1谷川浩司王将
1994年3-0谷川浩司王将
1995年3-0森けい二九段
1996年3-0島朗八段
1997年3-0島朗八段
1998年3-2谷川浩司竜王
1999年3-1丸山忠久八段
2000年3-2藤井猛竜王
2001年3-1久保利明七段
#一言日記:先日12日は息子が2歳になった。現時点での彼のお気に入りの言葉、「きゅうきゅうしゃ。ピーポーピーポー」
[2001/10/13 17:30]
王座戦に戻る

棋戦ウォッチに戻るトップに戻る