第51期王座戦レポート

第1局

かねてより大器と評判の19才の挑戦者渡辺明五段を迎えた今期王座戦、世間の注目も高いようだ。今の将棋界を引っ張ているのは羽生世代であることに異存のある人はいないと思うが、渡辺五段はさらに羽生世代よりさらに一回り若い。
世代交代と言う気の早い人もいそうだが、そうは簡単に羽生には勝てないだろうというのが、大方の見方の様だ。

さて将棋の方は中座飛車となった。下図で渡辺五段は新鋭とは思えぬ老獪な手を指した。

後手:渡辺明五段
後手の持駒:角 歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金 ・v玉 ・ ・v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・ ・v歩v歩v歩v桂 ・v歩|三
| ・v飛v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ 角 ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|六
| 歩 歩 桂 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ ・ 金 ・ 玉 ・ ・ ・ ・|八
| 香 ・ 銀 ・ ・ 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王座
先手の持駒:歩二 
【手数=29 ▲5五角打 まで】

ここから△8二歩!▲6五桂△6二金▲2三歩△同 銀▲同飛成と進んだ。
前例があるかどうかは知らないが△8二歩は「大人の」手。タイトル戦でこういう手を指すのは、なかなかどうして噂通り大物なのかもしれない。
先手の羽生王座は強く応戦、飛車を切った。これで先手の攻め、後手の受けという展開となった。

下図は中終盤の局面。今度は羽生王座の渋い手。

後手:渡辺明五段
後手の持駒:飛 桂二 歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀 ・ 飛 ・ ・ ・ 銀|一
| ・v歩v金v金 ・ ・ ・ ・ ・|二
| ・ ・ ・v玉 ・v歩 ・ ・v歩|三
|v歩 ・v歩 ・v歩 ・ ・ 歩 ・|四
| ・ ・ ・ ・ 馬 ・ ・ ・ ・|五
| ・ 香 歩 歩 ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ ・ 歩 ・ 歩v馬 歩|七
| ・ ・ 金 ・ 玉 銀 ・ ・ ・|八
| 香 ・ 銀 ・ ・ 金 ・vと 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王座
先手の持駒:桂 歩 
【手数=68 △5四歩 まで】

ここから▲3八金△5五歩▲2七金△4六桂▲6八玉△5二桂▲3六角△5三玉▲4九歩と進んだ。
▲3八金はちょっと派手な手だ。渋い方の手は敵の打ちたい所にじっと歩を打って手を渡した▲4九歩。なるほど、これで後手からの速い手は消されてしまったようだ。
実は森下八段の解説によると図の△5四歩の突き出しが、危険で、▲3八金の好手を与えて疑問だったらしい。

△8二歩の功罪だが、図を見ると玉の退路を阻んているだけの邪魔駒になっているが、これは結果論か。

#一言日記:末続選手帰国。ニュース番組に引っ張りだこでした。
[2003/09/03 1:00]
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第2局

第2局も先後を入れ替えての中座飛車となった。大流行のこの戦法だが、毎回ちょっとした工夫を先後のどちらかが試すのが常となってきた。 下図で羽生の指した手はちょっと当たらないのではないだろうか。

後手:羽生善治王座
後手の持駒:角 歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金 ・v玉 ・ ・v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・v歩v歩v歩v歩v桂 ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v飛 ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ 飛 ・ ・ 歩 ・|六
| 歩 歩 桂 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ ・ 金 ・ 玉 ・ ・ ・ ・|八
| 香 ・ 銀 ・ ・ 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:渡辺明五段
先手の持駒:角 歩 
【手数=29 ▲5六飛 まで】

ここから△4五角?▲6五桂と進んだ。
飛車成りを受けない△4五角が驚愕の一手だった。これが羽生の「試したみたい手」ということだが、結論からいうと疑問手で、先手に的確に咎められ形勢を損ねた。
手をためる▲6五桂が好手で後手陣は収拾の付かない形になっているという。

結果は69手の短手数で渡辺五段が完勝した。午後7時から予定されていた大盤解説より前の午後4時50分の終局とう異例の事態だったそうだ。

渡辺五段がタイトル戦で初勝利をした訳だが、この1勝は渡辺五段ターニングポイントになるかもしれない。

#一言日記:阪神優勝!巨人以外のチームが優勝したのは喜ばしいが、巨人並みの補強をすれば強くて当たり前か。
[2003/09/15 23:50]
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第3局

今期王座戦は本局も中座飛車となり、最新の中座飛車シリーズの模様を呈して来た。
29手目(上の図)までは第2局と同様に進んだ。ここで羽生王座は△4五角だったが、さすがにこれは疑問手だったようだ。
後手を持った渡辺五段は△6二金と指した。銀ではなく金というのが研究に裏付された斬新な手に感じるが、最新の中座飛車ではこれも「ある手」ということらしい。

序盤の流れは後手のペースだった。指したい手が沢山ある後手に対し、横歩を取った先手は一歩得だが、その歩はすぐには使い道がなく、指す手の限定されて来た。
下図は9筋に続いて△1五歩とこちらも突き越したところ。悠然と両端の歩を突き越している後手の指し手は、先手に有効な手がないと見てのことと思われる。

後手:渡辺明五段
後手の持駒:角 歩三 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一
| ・ ・v金 ・v玉 ・v金v銀 ・|二
| ・v銀 ・v歩v歩v歩v桂 ・ ・|三
| ・ ・ ・ ・v飛 ・ ・ ・ ・|四
|v歩 歩 歩 ・ ・ ・ ・ ・v歩|五
| ・ ・ 飛 ・ ・ ・ 歩 歩 ・|六
| 歩 ・ 桂 歩 歩 歩 桂 ・ 歩|七
| ・ ・ 金 銀 玉 銀 金 ・ ・|八
| 香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王座
先手の持駒:角 歩 
【手数=54 △1五歩 まで】

図から▲5六歩!
通常ではちょっと考えられない手だ。自玉のウイークポイントとも言える玉頭の歩を突くというのだから。しかし、これを境に中央を先手優勢になったという。羽生王座の卓越した大局観を垣間見た気がした。

中盤は羽生王座がじわじわと局面をリードし、差は広まるばかりと思われたのだが、そうではなかった。
下図は先手に端から手を作られたかに見える局面。角が死んでいるが...。

後手:渡辺明五段
後手の持駒:香 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一
| ・ ・v金 ・v玉 ・v金 ・ ・|二
| と ・v桂v歩v歩v歩v桂v銀 ・|三
| ・ ・v角v飛 ・ ・ ・ ・ ・|四
|v銀v歩 歩 ・ 歩 ・ 歩 ・v歩|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ 飛 歩 ・|六
| ・ 金 桂 歩 角 歩 桂 ・ 歩|七
| ・ ・ ・ 銀 玉 銀 金 ・ ・|八
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王座
先手の持駒:歩五 
【手数=93 ▲7五歩 まで】

後手はここで△6五角!
桂馬の利きに出た△6五角(ここしか行き場がないけど)が形勢逆転を決定付けた好手だった。
▲6五同桂△同桂で角に当たり、持ち駒の桂香は先手の大駒を攻めるには格好の駒だ。

126手で渡辺五段の勝ち。羽生王座相手に逆転勝ちを収めた。
河口風(正確にはシューマン風?)に言うならば「諸君、脱帽したまえ」といったところだ。初タイトルまであと1勝。

#一言日記:原監督解任。今期ペナントの結果はなにも原監督のせいではないと思うけど。後任は堀内氏ということだが、ますます弱くなりそうでアンチ巨人派としては大歓迎。
[2003/09/26 23:20]
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第4局

第4局はひさびさにタイトル戦に矢倉が登場したが、99手で千日手。同日21時から先後を入れ替えて(羽生王座の先手)指し直し局とあいなった。
指し直し局は中座飛車。松尾流△5五飛となった。
中座飛車音痴の筆者だが、今回は深浦康市七段の名著「最前線物語」を片手に振り返ってみたい。え〜と、この形はテーマ27進化する松尾新手か。
図は▲6七歩△2四歩としたところ。▲6七歩は第61期名人戦第1局(羽生○−●森内)でも現れた『たどりついた”筋の受け”(最前線物語より)』とのことだ。

後手:渡辺明五段
後手の持駒:角 歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・v金v玉 ・ ・v香|一
| ・ ・ ・v銀 ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・v桂v歩v歩v歩v桂 ・v歩|三
| ・ ・v歩 ・v飛 ・ ・v歩 ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 歩 ・ ・ 歩 飛 ・|六
| 歩 歩 ・ ・ 歩 ・ 桂 ・ 歩|七
| ・ ・ 金 玉 ・ ・ 銀 ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ ・ 金 ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王座
先手の持駒:角 歩二 
【手数=38 △2四歩打 まで】

ここから▲8二角△6四角▲4八金△4五桂▲同 桂△1九角成▲9一角成と進んだ。
▲8二角は『△2四歩には相手にしない▲8二角がスマートな指し方で、これが最新形(最前線物語)』とある。この手で先手良しになれば簡単で、個人的にはいかにも誘いの隙といった感じがするけど。
最前線物語で紹介されているのは全日プロの谷川vs丸山戦。こちらは▲8二角△2五桂▲9一角成△7五歩▲4四歩△同歩▲4二歩で『後手が勝ちにくい形勢(最前線物語)』とある。
さすがに本譜の進行までは「最前線物語」にも載ってないが、最近の序盤研究は恐ろしいもので58手目までは実戦例があるとのことだ。

中座飛車の勉強はこの辺で。もっと詳しく知りたい方は「最前線物語」で確かめて下さい。

さて、本譜は先手の馬が今一つ働いていない間に先攻する形となり、先手が受けきれるかという展開になってきた。
下図は△3七馬と桂馬を取ったところ。▲同金と取れば当然△同飛成だ。

後手:渡辺明五段
後手の持駒:桂 歩四 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・v金v玉 ・ ・v香|一
|v歩 ・ ・v銀 ・ ・v金v銀 ・|二
| ・ 馬 ・v歩v歩v歩 ・ ・v歩|三
| ・ ・v歩v桂 ・ ・v飛 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 歩 ・ 歩 ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 金 玉 ・v馬 銀 ・|七
| ・ 銀 ・ ・ ・ 金 ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 飛 ・ 香 ・|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王座
先手の持駒:桂 香 歩三 
【手数=80 △3七馬 まで】

ここから▲3五歩△5四飛▲5六歩△3六歩▲3四香と進んだ。
受けに回っていた先手だが、△3六歩と一息付いたところで▲3四香と反撃に転じた。
この辺りで攻防が変わって、先手優勢の流れになったようだ。

133手で先手羽生王座の勝ち。零時を回る熱戦を制し羽生王座がタイに追い付き、勝負は最終局に持ち越しとなった。

#一言日記:堀内巨人に続いて、落合中日が誕生した。落合氏はプレーヤーとしては一流だったけど、監督はどうかな。
[2003/10/09 00:20]
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第5局

最終局は千日手局に続いて矢倉となった。オーソドックスな4六銀3七桂3八飛の形から先手が仕掛けて下図。

後手:羽生善治王座
後手の持駒:銀 歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・v銀v金v玉 ・|二
| ・ ・v角v歩 ・v金 ・v歩 ・|三
| ・ ・v歩 歩v歩v歩 ・ ・ ・|四
|v歩v歩 ・ ・ ・ ・v歩 桂v歩|五
| ・ ・ 歩 ・ 歩 ・ ・ 歩 ・|六
| 歩 歩 銀 金 ・ 歩 ・ ・ ・|七
| ・ 玉 金 角 ・ ・ 飛 ・ 香|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手:渡辺明五段
先手の持駒:銀 
【手数=55 ▲6四歩 まで】

ここで後手の羽生王座は△6四同歩。
角ではなく歩で取った。角が使い難く(△6五歩ともう一手必要)、また6三の地点が開くので▲6三銀の筋が生じるため珍しい手と思う。先手の猛攻を受け切る覚悟を決めた決断の一手と言えるだろう。

先手が端をからめて攻める。先手の攻めをほどくのは大変という見方が大半を占めて来た下図は後手が反撃に転じた数手たった局面だ。

後手:羽生善治王座
後手の持駒:銀二 歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・v玉v桂 ・|一
| ・v飛 ・ ・ ・v銀v金 ・ 杏|二
| ・ ・v角 ・ ・v金 ・v歩 ・|三
| ・ ・v歩 ・v歩v歩v歩 ・ ・|四
|v歩v歩 ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| ・ 歩 歩 金 歩 ・ ・ ・ ・|六
| 歩 ・ ・ ・ ・ 歩 ・ ・ ・|七
| ・ 玉 金 角 ・ ・ 飛 ・ 香|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手:渡辺明五段
先手の持駒:銀 桂 歩三 
【手数=80 △3一玉 まで】

ここから▲6三銀△8六歩▲7九桂△2七銀▲5八飛△6九銀と進んだ。
やはり出現した▲6三銀。先手が挟撃体勢を整えたとも取れるが、△8六歩の取り込みも厳しく▲7九桂は受けだけのあまり打ちたくない桂馬だ。
△2七銀〜6九銀と曲線的な指し手で、形勢は混沌としてきた。

先手優勢で進んできたと思われた本局もこの辺りで形勢は近付き、100手辺りで後手優勢に変わった様だ。

128手で後手羽生王座が勝って、王座戦防衛。なんと12連覇という偉業を達成した。
投了図はほとんど頭金のような局面で、破れた渡辺五段の無念さが伝わってる。破れはしたものの大物であることは間違いなさそうだ。今後の活躍に期待したい。

#一言日記:中国が有人飛行に成功。毛利衛氏のコメントがよかった。
[2003/10/16 01:10]
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