挑戦者決定戦
挑戦者決定戦は昨年の挑戦者渡辺明五段と現時点での最強棋士森内俊之三冠の顔合わせとなった。
渡辺五段は7月31日にお子さんが誕生しており(渡辺五段の近況は「若手棋士の日記」でどうぞ)、是非とも連続挑戦と行きたいところだろう。
渡辺五段先手で始まった本局は先手の矢倉指向に後手森内三冠は追従しないで右玉の布陣を取った。森内の右玉は珍しいが、先手矢倉の勝率が良い渡辺対策の用意の作戦と思われる。
右玉という作戦の性格上、受け将棋になるのはやむを得ないが、完全に主導権は先手が握る展開となった。
下図はその中盤戦。戦い直前の図。後手の布陣で着目すべきは1筋の歩が伸びてる事。しかし右金が4三に行っているのも辛く、後は先手がどこから仕掛けるかという局面だ。
後手:森内俊之三冠
後手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v飛 ・ ・ ・ ・v角 ・v香|一
| ・ ・v玉 ・ ・ ・v金 ・ ・|二
| ・ ・v桂v銀 ・v金v桂v歩 ・|三
|v歩 ・v歩v歩v歩v銀v歩 ・ ・|四
| ・v歩 ・ ・ ・v歩 ・ ・v歩|五
| 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ 歩 ・ ・|六
| ・ 歩 桂 金 銀 歩 ・ ・ 歩|七
| ・ 銀 金 角 ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 玉 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:渡辺明五段
先手の持駒:歩
【手数=58 △4四銀 まで】
後手は千日手を狙いつつ先手の攻めを受け潰すしかないが、大抵は攻めが成立するとしたものだ。控え室も圧倒的に先手乗りだった。
そんな控え室の評価が代わったのが下図。▲7七桂(上図の7七桂は捌いた後で▲7七桂と打った)と6五にいた銀に当て、△5四銀引の角取を放置して▲7四歩としたところ。
先手も▲7七桂とした関係上7筋に傷があるが、攻め続けて勝てればそれで良い。
後手:森内俊之三冠
後手の持駒:金 桂 歩七
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v飛v角 ・ ・ ・ ・ ・v香|一
| ・ ・v玉 ・ ・ ・v金 ・ ・|二
| ・ ・ ・v銀 ・ ・v桂 ・ ・|三
|v歩 ・ 歩v歩v銀 ・ ・v歩 ・|四
| ・v歩v歩 ・ 角 ・ ・ ・v歩|五
| 歩 ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・ ・|六
| ・ 歩 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 歩|七
| ・ 銀 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 玉 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:渡辺明五段
先手の持駒:金 銀
【手数=101 ▲7四歩打 まで】
図から△6二金▲4四角と進んだ。
このタイミングでの△6二金が受けの妙手ということらしい。一見打ちにくいが、確かに先手がどう攻めるのかというと難しい。
▲4四角は「若手棋士の日記」によると、
「△62金に対する▲44角が自然に見えて疑問で▲66角が正解でした。▲44角以降は駄目のようです」
とのこと。
132手で森内の勝ち。最近積極的な手が目立ちその勢い通りに勝ちまくっている森内だが、従来の特徴である強烈な受けが印象に残った一局だった。
王座戦の主催紙サイトは控え室のコメントが随時アップされておりとても良い印象だ。名人戦の有料サイトとは大違いだ。
[2004/08/06 01:40]
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第1局
王座が最後の砦になってしまった羽生王座に森内三冠が挑む今期王座戦。13連破か四冠か。あの羽生が無冠になってしまうのか。見どころがたくさんある。
森内は羽生からタイトルを3つ奪取してその強さを知らしめたが、さきの棋聖戦では佐藤棋聖に3タテされている。
名人・竜王・王将とも2日制で、1日制(もっとも日頃の対局は1日制なのだが)ではまだ結果を残してないことになる。
森内先手ではじまった第1局は最近流行の後手番一手損角換りとなった。図から先手が積極的に動いた。
後手:羽生善治王座
後手の持駒:角
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・v玉v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・v金 ・v金 ・ ・|二
| ・ ・v桂 ・v歩v歩v銀v歩 ・|三
|v歩v歩v歩v歩v銀 ・v歩 ・v歩|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| 歩 ・ 歩 ・ 銀 歩 歩 ・ 歩|六
| ・ 歩 銀 歩 歩 ・ 桂 ・ ・|七
| ・ ・ 金 ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 玉 ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:森内俊之三冠
先手の持駒:角
【手数=34 △7三桂 まで】
ここから▲6六銀△8五歩▲5五銀左と進んだ。
このまま駒組が続くと後手の一手損戦法の主張が通ってしまうので、▲6六銀〜5五銀左とぶつけた。
この形は第16回全日本プロトーナメント5番勝負第3局(羽生○vs●森内)で類似形がある。当時は一手損角換りという作戦はなく、後手が△4四銀〜5五銀左とした(その他にもちょっとした形の違いがある)。
将棋年鑑によると△5五銀左は「守り駒を攻めに使っていくので好調とはいえない」と評している。
本局は一手損角換りという事情もあって、先手が▲5五銀左としたのだが、策士森内はその先に構想があった。
それが下図の▲6三銀打。全本プロでは△4九角(▲6一角)だったが、本譜は後手玉を直接攻めるのではなく攻め駒の飛車を攻めてもたれて指す方針だ。一回は受けに回る展開を覚悟しなければならず、森内らしい選択で強い受けの手が期待できそうだ。
後手:羽生善治王座
後手の持駒:角 銀 歩三
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・v玉v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・v金 ・ ・ ・ ・|二
| ・ ・ ・ 銀v歩v歩 ・v金 ・|三
|v歩 ・v歩 銀 ・v銀v歩v歩v歩|四
| ・v飛 ・v桂 ・ 桂 ・ ・ ・|五
| 歩 ・ 歩 ・ ・ 歩 歩 ・ 歩|六
| ・ 歩 ・ 歩 歩 ・ ・ ・ ・|七
| ・ ・ 金 ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 玉 ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:森内俊之三冠
先手の持駒:角
【手数=53 ▲6三銀打 まで】
ここから△4二金▲7四銀不成△7七歩▲同 桂▲同 金△6五桂▲同 銀と進んだ。
▲7四銀不成から飛車を攻めたが、その瞬間7筋の歩が切れたので後手は7七歩と叩くことが可能になった。
先手が7七を攻めている間に、どこかで手を抜いて△8五銀と飛車と取らなければいけないはずだが、飛車を取れず桂馬との交換になってしまっては何をしていたか分からない。ここでは形勢がはっきりしてしまった。
76手で羽生王座の勝ち。13連破に向けて好スタートを切った。
#一言日記:ibookと一緒に発注したAirMacExpressが納入(分納)された。しかし、繋ぎ方がよく分からん。
インターネット → ADSLモデム(PPPoP) → ルータ ┳ iMac
┣ AirMacExpress → iBook
┣ etc
としたいのだけど。
[2004/09/05 00:30]
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第2局
第2局は後手森内三冠がゴキゲン中飛車を採用した。
図は序盤。作戦の帰路だ。
後手:森内俊之三冠
後手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・v金v銀v桂v香|一
| ・v玉v銀 ・v飛 ・ ・v角 ・|二
|v歩v歩v歩 ・ ・v歩 ・v歩v歩|三
| ・ ・ ・v歩 ・ ・v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ 歩 ・ 歩 ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 銀 歩 ・ 歩|七
| ・ 角 玉 銀 金 ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ 金 ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王座
先手の持駒:なし
【手数=18 △6四歩 まで】
ここから▲2五歩△3三角▲3六銀△5六歩と進んだ。
▲2五歩△3三角を決めから▲3六銀とした。▲3六銀は違和感のある手だが、3四の歩をかすめ取る狙いで有力な手の様だ。
そうはさせじと△5六歩で早くも開戦、先手が3六銀で主導権を握れるか、後手がゴキゲンに捌くことができるかという勝負になった。
図は中盤戦。局面が収まってしまえば先手は桂得がほぼ確定している。後手はなんとか5筋で手を作りたいところだ。
後手:森内俊之三冠
後手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金v飛 ・v銀 ・v香|一
| ・v玉v銀 ・ ・ ・v金v歩 ・|二
|v歩v歩v歩 ・ ・v歩v桂 ・v歩|三
| ・v角 ・v歩 ・ ・v歩 飛 ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・v歩 歩 ・ ・ ・|六
| 歩 歩 桂 歩 ・ 銀 桂 ・ 歩|七
| ・ ・ 玉 銀 金 ・ ・ ・ ・|八
| 香 ・ ・ 金 ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王座
先手の持駒:角 歩二
【手数=42 △8四角打 まで】
ここから▲7九角△3九角成▲3四歩△5四飛▲5五歩△4四飛▲2五歩△2三歩▲3三歩成△2四歩▲4五歩と進んだ。
▲7九角は相当打ち難いが、5筋で手を作らせなければ桂得して良しという大局観。対して△3九角成だが、この忙しい時に角の空成位しか手がないのでは作戦成功とは言い難い。
悠々と▲3四歩とされて後手が困った様だ。せめて飛車を捌こうとするが、▲5五歩〜2五歩が冷静で、先手優勢がはっきりした。
87手で羽生の勝ち。羽生の完勝譜となった。軽い捌きが信条のこの戦法は森内には合わない気がするのだが。
#一言日記:AirMacExpressは試行錯誤の末繋がった。こうなると電源ケーブルが鬱陶しく感じてくる。
それにしてもiBookの筐体は熱すぎる。ファンは回りっぱなしだ。アダプタもあっちっちだし。いよいよG5となって登場したiMac、発熱は大丈夫?
[2004/09/16 00:30]
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第3局
第3局は両者の間でははじめてという相振りになった。
一昔前の相振りといえば囲いは金無双か穴熊が相場で、矢倉に組めれば作戦勝ちという印象があったが、最近の相振りの指し方は先手も後手も様変わりした。
先手は飛車を振る前に▲3七銀型(つまり矢倉)を目指す作戦が流行っている。一方、後手も角道を止めずに駒組を進める作戦が目に付く。
両者とも駒組で優位に立つための工夫だ。また、相振りには向かないとされる美濃囲いも見直されてきており、矢倉指向の先手に対抗するために後手が採用するケースが多い様だ。
相振りはシステム化されていない数少ない戦法の一つだが、ここにも近代化の波が訪れそうだ。
前置きはこの位にして本局だが、最新の相振りになった。最近研究が進んできたとはいえ、まだまだ暗中模索状態なので、両者とも慎重な時間の使い方だったようだ。
図は▲3一角から馬を作ったところ(2二に飛車がいた)。後手としては馬は作られるが5三にいた銀を攻めに活用すれば均衡は取れているという大局観だ。
先手も居玉で恐いところだが、森内らしく大模様で作戦勝ちを目指す方針にしたがい、敢えて本譜を選んだと言える。
後手:羽生善治王座
後手の持駒:角
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v玉v金 ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・v銀 ・v金 ・ ・ ・ ・|二
|v歩v歩v歩v歩 ・v歩 ・ ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・v歩v銀v歩v飛 ・|四
| ・ 歩 馬 歩 ・ ・ ・v歩 ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 ・ 桂 銀 歩 歩 銀 歩 歩|七
| ・ 飛 ・ ・ ・ ・ 金 ・ ・|八
| 香 ・ ・ 金 玉 ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:森内俊之三冠
先手の持駒:なし
【手数=31 ▲7五角成 まで】
ここから△3五歩▲同 歩△2六歩▲同 歩△3五銀▲6八玉と進んだ。
2筋から仕掛ける後手に対して▲6八玉と玉を左辺に移動したのが、好判断だったようだ。
少し進んで下図。いかにも狭いところに馬を作った後手だが...。
後手:羽生善治王座
後手の持駒:歩
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v玉v金 ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・v銀 ・v金 ・ ・ ・ ・|二
|v歩v歩v歩v歩 ・v歩 ・ ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・v飛 ・|四
| ・ 歩 馬 歩 ・ ・v銀 ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ 歩 ・|六
| 歩 ・ 桂 銀 歩 歩 銀v馬 歩|七
| ・ 飛 ・ 玉 ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 ・ ・ 金 ・ ・ 金 桂 香|九
+---------------------------+
先手:森内俊之三冠
先手の持駒:歩二
【手数=40 △2七角成 まで】
▲3六歩△4四銀▲8四馬△8二歩▲7九玉△3七馬▲同 桂△2六飛▲2八金と進んだ。
▲3六歩に△4四銀と引くようでは後手の狙いは頓挫してしまったと言わざるを得ない。また▲8四馬に△8二歩は△8三歩では▲同馬で持たないとの判断と思われるが、辛すぎる。
馬を切って飛車先突破を狙うが▲2八金がプロらしい受けだった。
あっさり土俵を割ったように見えたが、流石羽生王座と思わせる差し回しで緊迫した局面が続いたが、結果は101手で先手森内三冠の勝ち。森内は1日制のタイトル戦ではじめて結果を出した。竜王戦に向けて調子は上がっている様だ。
狙いが頓挫した時に、現状を甘んじて受け入れる羽生王座の懐の深さと、大模様をうまくまとめた森内将棋の大局観が印象に残る一局だった。
#一言日記:祝中日優勝。落合監督やるじゃん。
今年の夏に次男が生れたが、長男は1999年生れでどちらも中日の優勝した年に生れたことになる。このちょっとした偶然の発見にちょとした悦を感じた。
[2004/10/07 00:50]
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第4局
第4局は中座飛車。森内三冠の中座飛車は珍しいが、角番で採用したということは例によって試したい手があると見るのが妥当だろう。先手の羽生王座は、それを警戒したのか比較的古い応手で対応した。
本局は63手目まで第72期棋聖戦第4局(郷田●vs○羽生)と同様に進んだ。
その将棋は後手を持っていた羽生が勝ったのだが、Web中継の特別リポートでは、先手優勢というのが現時点での見解とのことだ。
下図がその63手目の局面。
後手:森内俊之三冠
後手の持駒:金 桂 歩三
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・v金v玉 ・ ・v香|一
| ・ ・ ・v銀 ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・ ・v歩v歩v歩v桂v歩v歩|三
| ・ ・v歩 ・ ・ ・ 歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ 歩 銀 ・ ・|六
| 歩v龍 歩 歩 歩 ・ 桂 ・ 歩|七
| ・ ・ ・ ・ 玉 ・ 金 ・ ・|八
| 香 銀 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王座
先手の持駒:角二 歩
【手数=63 ▲2九飛 まで】
ここで森内は△2六桂と変化した。以下▲4八金△3八金▲6五角△4八金▲同 玉△8六龍▲7六金と進んで、先手優勢がはっきりした様だ。
△2六桂で棋聖戦と別れを告げた訳だが、あまり評判は良くなかった。というのも△3八金とする形が重く、本筋とは思えないからだ。森内も局後「△2六桂がまずかったと思います」と述べている。
対照的に▲6五角は評判が良く、確かに味の良い手だ。
ちなみに棋聖戦で羽生は△5四桂と指しており、以下▲5五角△8五龍▲9一角成△7三桂▲4七銀△3五金と熱戦が続いている。
85手で羽生が勝って、なんと王座戦13連破!!を達成した。これは大山康晴15世名人の名人戦13連破と並ぶ大記録である。やはり羽生は強かった。
一方の森内は羽生から三冠を奪ったものの、またも1日制の棋戦で結果を残せなかった。19日には竜王戦が控えている。
#一言日記:サッカーはとりあえず一次予選突破。iCalなるものでタイトル戦を公開してみました。ただしまだ試行中です。
[2004/10/14 01:50]
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