第54期王座戦レポート

第1局

王位戦に引き続き王座戦も羽生vs佐藤となった。
思い起こせば昨年の王座戦第1局も佐藤vs羽生19連戦と記している。
佐藤棋聖は竜王戦挑戦者にも早々と名乗りをあげており、充実している。羽生という障壁さえなければ7冠制覇をも可能と思わせる勢いだ。

第1局は相振りの難しい将棋になった。両雄の将棋に相振りは少ないが、それだけ相振りが旬の戦法ということだろう。
先手は向い飛車に振って一目散に穴熊に。対して後手は三間飛車に振って下図から素早く攻撃陣を整えた。参考になる手順だ。

後手:羽生善治王座
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v銀v金v玉v金 ・v飛v角 ・|二
|v歩v歩 ・v歩v歩v銀 ・ ・ ・|三
| ・ ・v歩 ・ ・v歩 ・v歩 ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・v歩|五
| ・ ・ 歩 歩 歩 歩 ・ ・ ・|六
| 歩 歩 角 ・ 銀 金 歩 歩 歩|七
| ・ 飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 金 銀 桂 玉|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖
先手の持駒:なし
【手数=29 ▲1九玉 まで】

ここから△3三桂▲2八銀△2五桂▲3八金△3四銀と進んだ。
穴熊の端を狙い撃ちという感じで、穴熊に対する脅威がだいぶ緩和されていると思う。

先手は松尾流の要領でさらに穴熊陣を強化したが、手数を掛けた割に効果が分かりにくく、評判は良くなかった。
しかし、意外に後手からも仕掛ける手がなかったようで、予想外の展開になった。下図の後手の指し手はほんとに意外だった。

後手:羽生善治王座
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v玉 ・ ・ ・ ・ ・ ・|一
| ・ ・v金v金 ・ ・ ・ ・v飛|二
| ・v歩v銀v歩v歩 ・v角 ・v香|三
|v歩 ・v歩 ・ ・v歩v銀v歩 ・|四
| ・ ・ ・ 歩 ・ ・v歩v桂v歩|五
| 歩 歩 歩 角 歩 歩 ・ ・ ・|六
| 桂 ・ ・ ・ ・ 金 歩 歩 歩|七
| ・ ・ ・ 飛 ・ ・ 金 銀 香|八
| 香 ・ ・ ・ ・ ・ 銀 桂 玉|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖
先手の持駒:なし
【手数=49 ▲6六角 まで】

△8二銀▲4五歩と進んだ。
△8二銀は壁銀にもなるので指し難く一目ない手だ。しかし変わる手も難しい。対する▲4五歩も機敏だ。

端から戦火が切られたが、少しずつ先手が余した感じで先手優勢になった様だ。
しかし結果は後手羽生王座の勝ちとなった。とても難解で面白い将棋だった。あれだけ対穴熊に特化した攻撃的布陣を布いたのに本局は先手のペースになたことに将棋の奥深さを感じた。

羽生が辛くも先勝した形になったが、将棋は佐藤棋聖の持ち味が出た将棋だったと思う。先勝して数字の上でも、過去の実績では圧倒的に羽生優勢の出だしではあるが、それでも尚佐藤が奪取しそうな予感がする。

#一言日記:7日は久しぶりに仕事で徹夜。8日打ち上げをしたは良いが9日は一日中寝ていた。この年の徹夜は辛いあらためて思った。
[2006/09/11 00:40]
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第2局

少し遅れたが第2局を振り返る。難解を通り越して不可解な将棋だった。後手佐藤棋聖の一手損角換り出だしに対し、先手羽生王座は居玉のまま素早い銀の繰り出しで、▲3五歩△同歩▲同銀△3四歩と素人将棋っぽい局面となった。ここで銀を逃げずに▲2四歩と行く手もあるところだが▲2六銀と自重。そんな経緯を経て下図となる。四間に飛車を振ったので玉を右に囲うと思ったが後手玉は4一から3一に。

後手:佐藤康光棋聖
後手の持駒:角 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・ ・v玉v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・v飛v金 ・ ・|二
| ・v歩 ・v銀v歩 ・v銀v歩 ・|三
|v歩 ・v歩v歩 ・v歩v歩 ・v歩|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| 歩 ・ 歩 ・ ・ ・ 銀 ・ 歩|六
| ・ 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ ・|七
| ・ 銀 玉 ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ 金 ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王座
先手の持駒:角 歩 
【手数=35 ▲3六銀 まで】

ここから△7五歩▲同歩△7二飛▲7七銀△7三桂▲3七歩△6五桂▲7六銀△3九角と進んだ。
不可思議な手が沢山ある。
まず、△7五歩からの仕掛けが意表だ。ここから仕掛けるなら4筋に飛車を振る必要があったのか。攻めも細い感じが否めない。
先手の応手もよく分からない。▲3七歩は諸々も筋を消した手ではあるが消極的でプロらしくない。せっかく3六銀が好形だが3七に歩があると愚形の典型だ。
最も驚いたのは△3九角。△3九角以下▲3八飛△5七角成▲同金△同桂成と進むのだが、将棋を覚えたての素人の手の様だ。△3九角の筋が成功するケースはプロでは皆無のはず。
△3九角では控え室でも検討されていた△5四角ではダメなのだろうか。先手は7六の銀の処理が難しく後手としては銀桂交換位にはなりそうだ。先手も△5四角を避けるなら▲7六銀が疑問ということになる。
本譜は軌道修正なのか読み筋なのか?
最強でぎりぎりの手順に踏み込んだ結果、一見無筋と思われる手のオンパレードになったということだと思う。

ただし、やはりというべきか後手の攻めは無理筋だったようで、的確(かつ最強の手順)に咎められた。
佐藤棋聖連敗。王座戦戦前には佐藤奪取と予想したが、やはり羽生は強い。これだけ勢いのある佐藤を正面から受け止めて崩れないのは流石というしかない。

#一言日記:名人戦は朝日/毎日の共催ということになったようだ。へたをすると最悪のシナリオが十分考えられる中、思いがけず好ましい方向に落ち着きそうで、一安心といったところか。
[2006/09/22 00:40]
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第3局

好調ながらも対羽生戦には今ひとつ成果をあげられない佐藤棋聖。王位戦に続いて挑戦権を得た王座戦だったが2連敗と追い込まれた。
本局は後手羽生王座が力戦形四間飛車の趣向を見せた。力戦形好きの佐藤棋聖を意識したのかもしれない。
図は先手が飛車先の歩を切ったのに対し2三の地点を守らずに△6二玉としたところ。▲2三飛成は△8八角成▲同銀△2二飛で大丈夫と見ている。

後手:羽生善治王座
後手の持駒:歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金 ・v金v銀v桂v香|一
| ・ ・ ・v玉 ・v飛 ・v角 ・|二
| ・v歩v歩v歩v歩v歩 ・ ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 飛 ・|四
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ 角 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖
先手の持駒:歩 
【手数=12 △6二玉 まで】

ここから▲2八飛△3二金▲4八銀△4四歩▲2四歩△4三飛▲3六歩と進んだ。
先手も▲2三飛成は術中と見て飛車を2八に引いた。後手はあくまでも2筋を受けない方針で▲2四歩△4三飛と頑張った。
なんとなく、昨年の王座戦第2局を彷彿させる序盤となった。ただし後手を指しているのは羽生王座。

図は△3六歩としたところ。▲同銀は△1九角成がある。

後手:羽生善治王座
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v玉v銀 ・ ・ ・v金v歩 ・|二
| ・v歩v歩v歩 ・v飛 ・ ・v歩|三
| ・ ・ ・v角v歩v銀 ・ 歩 ・|四
|v歩 ・ ・ ・ ・v歩 ・ 飛 ・|五
| ・ ・ 歩 歩 歩 ・v歩 ・ ・|六
| 歩 歩 銀 ・ ・ 歩 銀 ・ 歩|七
| ・ 玉 ・ 金 金 ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光棋聖
先手の持駒:角 歩 
【手数=48 △3六歩 まで】

ここから▲同銀△1九角成▲3五銀△3三銀▲2六飛△6四馬▲3六飛△5五歩▲3七桂と進んだ。 ▲同銀の本譜は後手香得の上馬ができる。よって▲6五歩△3七角成▲同桂△同歩成と進むと思われたが、本譜が意外にも難解だった。
馬を作らせた上に香損するが、▲3七桂と桂を活用して駒の効率で局面の均衡をはかるのは現代将棋でしばしば見られる手法だ。

随所に踏み込んだねじり合いがあって面白い将棋だったが、羽生の勝ち。
羽生は王座戦15連覇。タイトル獲得数65期で中原を抜いて歴代単独2位になった。勢いのある佐藤棋聖に苦戦すると思ったが、結果はあっさり3連勝での防衛。羽生強し、である。

#一言日記:プロ野球が大詰めだ。パリーグのレギュラーシーズンは日ハムが制した。セリーグは我が中日が阪神の追従を逃げ切れるかどうかという展開になっている。ガンバレ、ドラゴンズ! [2006/09/30 11:00]
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