第55期王座戦レポート

第1局

今期王座戦挑戦者は最近好調の久保八段。挑戦者決定戦では石田流の乱戦で堂々森内名人を破った。久保八段のタイトル戦は登場は2001年の第26期棋王戦、第49期王座戦以来3回目。いずれも羽生王座棋王に破れている。当時は勢いのある新鋭というポジションだったが、今では中堅どころ。誰が言い出したか最近では「捌きのアーティスト」と言われている。さて今期はどんな戦いを見せてくるのだろうか。

他の振り飛車戦の例に漏れず、最近の久保も戦法の基軸を四間飛車からゴキゲン中飛車や三間飛車へとシフトしてきている。本局は▲7六歩△3四歩▲7五歩と石田流の出だしとなった。挑決も先手久保は石田流を採用し、対する森内が居飛車で受けて、鈴木八段が升田幸三賞をとった新石田流の急戦になった。
相手の得意を正面から受ける横綱相撲を信条とする羽生のことだから居飛車で受けると思ったが、相振り飛車を選択した。これは少し意外だった。

図は△4六歩と四間に振った後手が4筋の歩を交換したところ。
ここまでの流れは、三間から7筋の歩を交換した先手に対し、後手は△7三歩と謝らずに矢倉を指向、これに対し先手は穴熊を目指した、といった感じだ。
後手:羽生善治王座
後手の持駒:歩二 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・v玉 ・ ・ ・ ・ ・|二
|v歩v歩v銀v金v歩 ・v角 ・v歩|三
| ・ ・ ・v歩v銀 ・v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・|五
| 歩 ・ ・ 歩 ・v飛 ・ ・ ・|六
| ・ 歩 ・ 銀 歩 ・ 歩 歩 歩|七
| ・ 角 飛 ・ ・ 金 金 ・ 香|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ 銀 桂 玉|九
+---------------------------+
先手:久保利明八段
先手の持駒:歩二 
【手数=38 △4六同飛 まで】

ここから▲7四歩△同金▲7五歩と進んだ。
後手の歩交換を咎める指し方で、手持ちの2歩で7筋から動いた。
一歩損にはなるが、後手陣を愚形にするのが狙いの積極的な指し方だ。

少し進んで下図。後手陣の形を乱すだけ乱して、▲6五歩を決行したところ。この辺りでは検討陣も先手持ちの様だった。

後手:羽生善治王座
後手の持駒:歩五 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v銀 ・v玉 ・ ・ ・ ・ ・|二
|v歩v歩 ・ ・v歩 ・v角 ・v歩|三
| ・ ・ 歩v歩v銀 ・v歩 ・ ・|四
| ・v金 ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・|五
| 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・v飛 ・|六
| ・ ・ ・ 銀 歩 ・ 歩 ・ 歩|七
| ・ 角 飛 ・ ・ 金 金 ・ 香|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ 銀 桂 玉|九
+---------------------------+
先手:久保利明八段
先手の持駒:歩 
【手数=51 ▲6五歩 まで】

ここから△4七歩▲4九金△2八歩▲同銀△2七歩▲同銀△8六飛▲3三角成△同桂▲8八歩△2六歩と進んだ。
先手の狙い通り角が捌けた。角の打ち込む隙は後手陣に多いので何事もなく△2二角が実現すれば先手優勢。しかし△2六歩が厳しい一手で、優劣不明だ。

陣形の差が穴熊とばらばらの矢倉なので、模様としては先手がよさそうだったが、駒の損得や効率を考えると先手優勢だった時はなかったのかもしれない。
羽生が先勝して16連覇へ向けて幸先の良いスタートとなった。
あれだけ陣形を乱されても、形勢が傾いてはいないと判断した羽生の大局観には脱帽だ。

#一言日記:2年振りに、鴨川シーワールドに行ってきた。2年生の長男が幼稚園年長の時に行ったのだが、彼はあまり覚えていない様子だった。3歳の次男ははしゃいでいたけどはやり記憶には残らないのだろうか?
[2007/09/08 23:00]
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第2局

第2局はまたしても相振り飛車になったが、後手久保八段の積極的な序盤を披露して、見たことのない力戦形の将棋となった。
久保のその指し手は、善悪は分からないが、羽生王座をも翻弄させるような手順だった。
先手羽生は三間飛車から浮き飛車を目指した。対して後手久保は5三銀型から向い飛車に。
図は△2五歩としたところ。

後手:久保利明八段
後手の持駒:歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金v玉v金 ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v飛 ・|二
|v歩v歩 ・v歩v銀v歩v角 ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・v歩 ・v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・|五
| 歩 ・ 飛 歩 ・ ・ ・ ・ ・|六
| ・ 歩 桂 ・ 歩 歩 歩 歩 歩|七
| ・ 角 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 ・ 銀 金 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王座
先手の持駒:歩 
【手数=18 △2五歩 まで】

ここから▲6五歩△7五歩▲8六飛△8二銀▲6八銀△8四歩▲9七角△4四角▲7八金△8三銀▲4八玉△7二金と進んだ。
第一弾は△7五歩。▲同飛は△2六歩と△6六角の狙いがあり取りにくい。
第二弾は△8四歩。▲同飛は△7六歩でこれは後手が良い。
こうも連続で飛車先の歩を逆に突いて、「取ってみろ」という手を指されては、先手の良い道理はないだろう。
一直線に石田組の布陣を目指したのが、疑問ということになると思う。

序盤は明白な久保ペースで進んだが、更に良さを求めて9筋から動いたがやや空回り気味だった。だんだん微妙な形勢になってきた。
図は▲3五歩としたところ。9筋の折衝で歩損をした割には効果が出ていないように思う。

後手:久保利明八段
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v飛v香|一
| ・v角v金 ・v玉v金 ・ ・ ・|二
| ・ ・ ・v歩v銀v歩v桂 ・v歩|三
| ・v銀v歩 ・v歩 ・v歩 ・ ・|四
| 歩v歩 ・ 歩 ・ 歩 歩 ・ ・|五
| 香 ・ ・ 金 飛 ・ ・v歩 ・|六
| 角 歩 桂 ・ 歩 ・ 桂 ・ 歩|七
| ・ ・ ・ 銀 ・ 金 玉 歩 ・|八
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ 銀 ・ 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王座
先手の持駒:歩二 
【手数=69 ▲3五歩 まで】

ここから△2五桂▲同桂△同飛▲4六桂△7五桂▲5四桂△3二金▲5五金△3五歩▲7六歩△9五銀▲3三歩と進んだ。
互いに桂を持ち合って、先手は4六に後手は7五に打った。この交換は攻防の▲4六桂の方が、受け一方の△7五桂より得だ。
ここでは既に後手がおかしくなってしまっている。

誰が見ても攻防共に見込みのない局面になってもなお意味のない手を数手指し続けた久保。悔しさがにじみ出ていた。
難局を逆転で勝利した羽生は簡単に土俵を割らない強さを改めて感じた。

#一言日記:セリーグが面白い。単純に贔屓の中日が好調なのが主な理由だけど。
[2007/09/24 01:00]
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第3局

背水の陣の久保は先手藤井システムに命運を掛けた。ここまでの2局は相振りで対抗していた羽生だが、本局は居飛車に。

猛威を振るった藤井システムも、居玉ということもあり、対策が進んできて最近はあまり見なくなった。
本局は▲1六歩を保留して▲3六歩を先にした。一手の価値が▲3六歩が高いと見た手だが、藤井システムの苦悩が垣間見える。急戦への対策が必要不可欠だが、急戦対策よりも居飛穴対策にウエイトを置いている手ということは確かだろう。これに呼応して後手は急戦の布陣に。当然の選択だ。

図は▲6五歩と決戦を挑んだところ。後手は6四銀7三桂の古典的布陣だ。先手は6七の銀を一回7八に引く伸縮戦法で間合いを図っている。この戦法で良くある間合いの取り方だ。▲6五歩は決断の一手。

後手:羽生善治王座
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・v金v銀v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・v金 ・v玉v角 ・|二
| ・ ・v桂v歩 ・v歩 ・v歩v歩|三
|v歩v飛v歩v銀v歩 ・v歩 ・ ・|四
| ・v歩 ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ 歩 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 角 銀 歩 ・ ・ 歩 歩|七
| ・ ・ ・ 飛 金 ・ 銀 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 金 玉 桂 香|九
+---------------------------+
先手:久保利明八段
先手の持駒:なし
【手数=29 ▲6五歩 まで】

ここから△5五銀▲7八銀△7五歩▲同歩△4六銀▲2二角成△同玉▲7七銀△8六歩▲同歩△1二玉▲7四歩△同飛▲8三角△7七飛成と進んだ。
後手から角交換をせずに△5五銀と躱した。先手から▲2二角成に△同玉と強く取って、更に△1二玉と米長玉にしたのが後手の狙いだった。
部分的には銀を4六にすり込んで、4六歩3六歩型を咎める形になっているが、飛車をいじめられる展開になっており、形勢は不明か。
と呑気に思っていたら、ばっさりと△7七飛成と飛車を切った。

飛車切りも凄いがこの後の展開も凄い。
少し進んで下図。後手はとりあえずと金で取られそうな5二の金を何とかしないといけない。

後手:羽生善治王座
後手の持駒:銀 桂 歩 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・v金v銀v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・v金 ・ ・ ・v玉|二
| ・ 角v桂 と ・v歩 ・v歩v歩|三
|v歩 ・ ・ ・v歩 ・v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・v角 ・ ・ ・ ・|五
| ・ 歩 ・ ・ ・v銀 歩 ・ ・|六
| 歩 ・vと ・ 歩 ・ ・ 歩 歩|七
| ・ ・ ・ ・ 金 ・ 銀 ・ ・|八
| 香 ・ ・ 飛 ・ 金 玉 桂 香|九
+---------------------------+
先手:久保利明八段
先手の持駒:飛 歩三 
【手数=51 ▲6九飛 まで】

ここから△2四桂▲5二と△3六桂▲1八金△5七銀成▲3七歩△5八成銀▲同金△5七金▲3六歩△5八金▲4九歩△6八歩と進んだ。
なんと自陣に目もくれずに△2四桂!
凄いことになった。しかしこれはさすがに後手がやり過ぎだろうと思った。▲4九歩で受けきりだ。金で6九の飛を取ってくれれば攻めが遠のく。
と思ったら△6八歩。金を残しつつ歩で飛を取りにいく手だが、これはさすがに先手の手勝ちでしょう。

先手良しの雰囲気が支配していたが、そんなに簡単な将棋ではなかった。
図は▲1七桂と制空権の2五金に働きかけたところ。後手玉は1三におり攻め駒を攻める手が直接後手玉に届くという真に攻防の手だ。先手必勝か。

後手:羽生善治王座
後手の持駒:飛 角 銀 歩三 
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ と ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 金 ・|二
| ・ ・v桂 ・ ・v歩 ・v歩v玉|三
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・v歩|四
| ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・v金 ・|五
| ・ 歩 ・ ・ ・ ・ 歩 ・ 歩|六
| 歩 ・vと ・ ・ ・ 銀 歩 桂|七
| ・ ・ ・ ・v金 ・ 銀 玉 金|八
| 香 ・ ・ ・ ・vと ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:久保利明八段
先手の持駒:飛 角 銀 桂 歩 
【手数=81 ▲1七桂 まで】

ここから△3九角!▲2九玉△1七角成▲同金△3九飛▲2八玉△4八と▲同銀△同金▲5七角△4六桂!▲同角△3五銀!と進んだ。
△3九角から要の1七桂を抜く手があった。更に▲5七角の王手金取りには△4六桂△3五銀の連続捨て駒でとどめだ。

壮絶な終盤戦だった。羽生マジックという声も聞こえてきそうだ。
米長玉を最大限に活かして斬り合いに活路を見出した大局観。これが羽生将棋だ。
しかし手順中、これらを上回る妙手があったらしい。△4八とに▲4七銀とするのがそれ。△4七同とならば▲3九玉とする意味だが、もう一アマチュアには理解不能。投了します。

羽生はこれで16連覇。福崎九段が「前王座」を名乗っているという冗談のようなホントの話状態だ。
久保はまたしても羽生の前に破れたことになるが、深浦が王位を奪取したように、タイトルを取るのは決して不可能ではないと思う。奮起してもらいたい。

#一言日記:セリーグはペナントは巨人に。クライマックスシリーズに期待しよう。
[2007/10/08 23:50]
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